近年大学への進学率が年々高まり、今春の大学進学率は過去最高の57.7%で、8年連続で過去最高となった。短大や専門学校などを合わせた高等教育機関への進学率を見てみると84%で、大学進学を諦める学生は大分少なくなった。文部科学省によれば、奨学資金など就学支援制度の周知や、経済的に困窮して進学を諦める家庭が減少したことなどが影響しているという。これで真面目なインテリ学生が増えれば、言うことはない。
しかし、大学の経営面から見ると手放しでは喜べないようだ。大学入学志願者が増えて大学を新設したり、学生数を増やす大学も見られる一方で、定員割れの私立大学が増えていて、今春の入学試験で定員割れの私大が、過去最多の354大学にも及んだ。18歳人口の大幅な減少が影響したようだが、私大全体として入学希望者が増える中で、定員を拡大した意図が経営的には空回りした現実となった。私立大学の経営上深刻な面も考えられる。
東京・三鷹市内にある国際基督教大学(ICU)が、規模は小さいが、私立大では早慶上智と並ぶ偏差値の高い大学とされ、特に卒業生はほとんど英語をマスターして国際感覚を身に着けた優秀な学生が多い。高校の同級生にもICUへ進学した優秀な女子がいた。そのICUが志願者の減少に頭を悩ませているというから意外な感がする。ICUは、経済界でも名を成した理事長の財務対策から、運用益を増やしたくらいで経営的に苦しいわけではない。今同じ中央沿線の女子大の名門・東京女子大学と提携して、「数理・情報・データサイエンスを含めたリベラルアーツ教育の拡充に、相互にリソースを提供する」との狙いで、企業に例えれば、研究開発や、生産能力を仮想的に統合し、ライバルに対抗する戦略を考えたという。その効果が結実し、ICUの入学希望者が増えれば結果としては成功と言えるのだろうか。
他にこんな問題もある。経営上の理由から最近話題に上がった千葉県銚子市内の私立千葉科学大学は、大学を経営している学校法人加計学園が、昨年10月銚子市へ公立大学への移行を持ち掛け、現在銚子市で公立大学法人化が検討されている実態がある。
また、通常の大学運営経費も最近の諸物価高騰の影響もあり、天下の東大が来年度の入学者から年間授業料を現在の535,800円から約11万円も上げ、642,960円に値上げするという。私大に比べてすべてにおいて安いと思われている国立大でも、背に腹は代えられないのか、これだけ大幅な値上げをされては、学生の保護者も一部生活費を切り詰めなければならないだろう。
私立大の授業料は、当然東大のそれを遥かに上回る筈で、ひとりでも子どもを大学に通わせている家庭の親は大変苦労されておられることだろう。
大学及び学校経営は一般的な企業の収益向上を主目的とする経営とは、自ずから大きな違いがある。一番の冥利は、卒業生がここで学んだことが大きな楽しみと思い出となって、自分を生かしてくれ、この大学で学んだことが大きな喜びとなったと思ってくれることだろう。それはこの世知辛い世の中で何ごとにも代え難い経験だったと言えるのではないだろうか。さすれば、学校経営者は、利だけを追うのではなく、学校経営の極意を知ることが大事だと改めて自覚することと思う。