3071.2015年10月10日(土) 一味違う今年のノーベル平和賞

 昨日ノーベル平和賞がチュニジアの民主化に貢献し、引き続き活動している「チュニジアン・ナショナル・ダイアログ・カルテット(チュニジア国民対話カルテット)」に授与されると発表された。チュニジアでは23年の長きに亘って独裁政治を敷いてきたベンアリ政権が、ジャスミン革命によって倒れた後、国内に湧きあがって来た国民運動が「アラブの春」の先駆けとなって周辺諸国に民主化の影響を与えた。その後国内では、イスラム系政党「ナハダ」と、世俗派及び左派の溝が深まった。だが、その緩衝仲介役として対立回避へ向かわせたのが、今回受賞の対象となった国民対話カルテットである。カルテットと呼ばれる通り、4つの団体、「チュニジア労働総連盟」「人権擁護連盟」「産業商業手工業連盟」「全国弁護士会」からなる複合組織である。

 中東や北アフリカでは、長らく実権を握っていた強権政権が2011年以降次々と崩壊し、各国では今もそのまま混乱が続いている。その火付け役となったのが 「アラブの春」と呼ばれた民衆蜂起だった。

 ノーベル平和委員会は、中東、北アフリカでの民主主義と基本的人権は途上で悉く失敗に終わったと指摘した。実際エジプト、リビア、イエメンでは、新しい政権による弾圧や武装組織による市民への迫害が今も続いている。その中でチュニジアは、民主化を望む国民の声に後押しされた4つの団体が、各政党に政治対話を促し、与野党合意の下に暫定内閣の発足から、憲法制定、人民議会選挙、大統領選の日程に至る民主化プロセスを作り上げることに力を尽くした。この地道な努力をノーベル委員会が評価したのである。もちろんチュニジアにはまだ解決すべき課題が山積している。雇用不足や難民流出、ISへの志願者増加、自国内テロ事件発生等々、事態は依然として深刻であり楽観は許せない。

 しかし、それでも国民対話カルテットが活動しなければ、チュニジアも他の周辺諸国と同じ道を歩んだことだろう。その意味では、この団体が民主化のために果たした役割とその功績を無視することは出来ない。

 これまでノーベル平和賞と言えば、混乱の最中にある当事者が受賞するということはあまりなかったように思う。危険の恐れのない平地で平和のために活動する人々や団体が賞の対象になっていた。今年の平和賞はその点で、従来とは一味変わったものになった。混乱の中にあって事態を一層悪化させるような混乱を止めさせようと地道な努力を重ねてきた団体に、ノーベル平和賞が授与されることになったのである。

 今年は日本からも「日本原水爆被害者団体協議会」や憲法9条の改正に反対する「九条の会」が、戦後70年という節目に当り、受賞への淡い期待を抱かせた。結果的には上記の通り、国内の政治的対立解消と国の民主化のために活動した、チュニジアの4つの組織が手を携えた行為に対して栄誉ある平和賞が授与されることになった。

2015年10月10日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com