99.2007年8月21日(火) 岩波書を取り扱わない書店

 毎月恒例のJAPAN NOW観光情報協会主催「観光立国セミナー」にフリージャーナリスト・北岡和義氏を講師としてお招きした。テーマは「日本とどこが、何が違うのか~ジャーナリストが目撃した米国」と題して質疑応答を含め1時間半、大変興味のある内容を、現場の人でなければ分らない視点で話してくれて出席者にも好評であった。「観ると住むとは大違い」「情報は、Information とIntelligence」「Something new, Something different」など、思い当たることである。北岡氏の在米27年という経験、しかも日本で読売記者として活躍された後に、ロスで邦字紙編集長を務め、日本語TV局を立ち上げた経歴は、話し方や内容においても説得力があった。北岡氏を講師にお願いして本当に良かったと思う。

 会場である海事センターに近い地下鉄半蔵門駅の地上にある山下書店で、岩波文庫本を探したがどうしても見つからず、店員に尋ねたところ取り扱っていないとの回答だった。かなり大きな書店だし、都内にもチェーン店として12店舗ほどあるが、まったく取り扱わないようだ。

 岩波書店は、小売書店にはなかなか厳しい条件をつけ、特に返本制度を認めず仕入れ書はすべて買い取りと承知している。また、内容的にも堅い書籍ばかりで販売に苦労があるとは推測できる。しかし、岩波書を取り扱うことは、書店としての「格」を表わすとともに、経営者の矜持ではないだろうか。極端に言って、店頭にマンガと週刊誌ばかりの書店は、書店と呼べるだろうか。書店を開業し書籍を販売するのは、他の商品を販売するのとは理想とか、目的、意義においてまったく別物だと思う。少なくとも文学とか、教育、教養に関心がなければ、書籍を取り扱うような商売は始めないはずである。経営者には銭勘定だけではない、幾許かの理念とか、教養志向、読書好きのようなインテリジェントな気持ちがあると思う。ところが、この山下書店には、そんな理念なんかこれっぽちもないようだ。

 書店が書籍販売不振に追い込まれていく過程で、経費節減と事業の効率化を図る。小規模経営より大型店舗が増え、小規模書店が淘汰され会社組織になり、社員の中にも読書にさほど関心のない人が多くなり、本来の書店としての目的が薄れていることは、残念ながら事実であろう。

 岩波に身びいきするわけではないが、山下書店の販売戦略は書店経営としては志が足りず、いささか情けないと感じる。昨日パソコンを習いに行った帰りに、立寄った東横線都立大学駅前の小さな八雲堂書店でさえ、岩波コーナーを設けていた。つい再び読みたくなり、米川正夫訳「カラマーゾフの兄弟」第1巻を買い求めたが、奥付を見ると初版が80年前の1927年で、東京の地下鉄が開通し、芥川龍之介が自殺した年である。購入した文庫本は、77刷とあった。長く深い歴史を感じさせる名著である。山下書店はこういう名著に背を向けている。情けない!

2007年8月21日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com