下馬評通りオーストラリアの総選挙の結果、11年間首相を務めてきたハワード首相が率いる保守党が、ラッド氏の労働党に敗れた。首相自身も予想されていた通り落選して、政界を引退すると述べた。現職首相の落選は、実に78年ぶりで史上2度目だそうである。今回の選挙結果は、日本にとってもかなりの影響がありそうだ。
なぜ大きな失点もなく、11年も続いた政権与党が敗れ、その党首である首相自身も選挙に敗れる結果になったのだろうか。新聞評によれば、失政もなかったが、長期政権に対する有権者の「飽き」があるという。勝ったラッド労働党党首は、経済政策面で大幅減税まで行ったハワード政権に対して、経済を争点にすることは避け、経営者寄りの労働政策の転換や、教育改革を公約に掲げて、低所得者層や子持ち家庭の支持を集めた。
今後ラッド労働党政権は、外交面でもスタンスを変えてくるだろう。戦前から言われていたことだが、最初に取り組む課題は、温暖化ガスの排出削減義務を定めた京都議定書の批准になるだろう。豪政府が議定書批准に方針転換することにより、アメリカや温暖化ガス排出削減義務を負っていない中国に、圧力を加えるようになる。オーストラリア国立大で中国語と中国史を学び、外務省に入って北京駐在経験もあり、中国語も流暢に話すラッド氏は、中国に親近感を抱いており、アジア外交が中国寄りにシフトするだろうとの観測がある。今後世界中で中国買いのムードが溢れてくるだろう。日本にとっては容易ならぬことになりそうだ。例えば、WTOの多国間交渉を優先する姿勢を貫く考えで、日本がこれまで主張してきた一部農産品の除外は、認められないことになりそうである。
アメリカとの外交関係においても、これまでのブッシュ政権との蜜月状態は、微妙になりそうである。イラク派遣部隊の段階的撤退方針を公言していた手前、当然軍隊を撤収させることになろう。イラク問題は、どこの国にとってもそろそろ厄介なお荷物となりつつあるようだ。