218.2007年12月18日(火) 小説の価値判断は?

 日本の新聞に特有の連載小説は、案外面白いと思って大体読むようにしている。いま購読紙の朝日、日経の朝刊、夕刊を併せて5つの連載物を読んでいる。喩え大新聞であっても連載小説は玉石混交で、面白かったり、そうでなかったりで、とりあえず読んでみないと分からない。

 まだあまり時間が経過していないが、先日朝日の夕刊紙上の小説「悪人」の連載が終わった。吉田修一の力作という触れ込みである。本人もこれこそ渾身の自信作と思える力作だと述べていた。そのコメントを聞いた時、意外な感がした。私にはそんなに良い作品とも思えないし、ストーリーだって今風の若者の無軌道を描いたもので、とりたててトリックを使ったとか、どんでん返しがあったとか、あっと言わせるような結末というのでもない。社会性もなし、訴えるものもなかった。それが、今日の新聞広告によれば、9刷を重ねて、「毎日出版文化賞」を受賞したという。加えて、「週刊文春」がミステリーベスト8位、「ダ・ヴィンチ」がプラチナ本年度1位、「ダ・カーポ」は今年最高!の本第1位とある。いささか首を傾げざるを得ない。

 福岡市内に住む金持ちのプレイボーイ大学生と、彼に惚れている保険会社勤務の女性社員が車で夜中にデートして、峠で女性は捨てられ、それを偶々通りかかった主人公(悪人?)が、車に乗っけてやったが散々悪口を叩かれののしられ、ついに逆上して絞殺してしまう。男が自暴自棄になった時、背広販売店の女店員と知り合い愛し合う。しかし、一旦は自殺を思った男は女を騙すことが出来ずに別れ、自首して出る。ざっとこんなストーリーだが、陳腐な舞台設定と暗いイメージは、何をしてこの程度の小説に賞を与えるほどの価値があるのかと、そのギャップに戸惑うほどである。読んでいて何の面白みも、感傷もなかった。現代はこういう性質の悪い大学生もいるのかと思った程度である。

 近年の芥川賞や、直木賞ですら受賞者の作品には、社会性や、時代性を描くよりセックスばかり強調している小説が多くなった。現代は、小説の価値も分かりにくくなった。

2007年12月18日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com