NHKの長寿番組「クローズアップ現代」が、昨年5月に出家詐欺事件を取り扱った「やらせ」報道が問題視されていたが、昨日BPO(放送倫理・番組向上機構)委員会がNHKに対して「クローズアップ現代」他に重大な放送倫理違反があったとして、対応を厳しく非難した。やらせが明るみになった時点で、これ幸いとばかり政府と自民党が便乗してNHKの番組内容に立ち入った発言をし、個々の放送番組の内容に介入したことに対しても、BPOは放送の自由と自律に対する政権党による圧力であると厳しく非難し、極めて遺憾であると述べた。
ところが、これに関して高市早苗・総務相は直ちに、「行政指導については番組の内容が放送法に抵触すると認められたことから、放送法を所管する立場から必要な対応を行った。NHKは公共放送としての社会的責任を深く認識し、放送法・番組基準などの遵守とその徹底を行ってほしい」とBPOの批判に対して、自分たちの行動が正しいと言わんばかりの的外れな反論を行っている。これでは政府はやろうと思えば何でも出来ると言っているのと同じことではないだろうか。恰も居直ったかのようで、まるで自分たちの行為に対する批判に耳を傾ける気がないようだ。政界は自民党1人勝ちの一強多弱となり、何でも出来ると思いあがって、他人の意見に一切耳を貸すことなくこうも傲慢になるものかと呆れるばかりである。
この種の問題は、ともするとそれぞれの言い分が本筋から外れがちになる。だが、これとてNHKのやらせ自体が事の発端であり本質的な問題なのである。これに対して事あるごとに口を出す自民党の報道への干渉は問題外であり、本末転倒である。
もし、今回話題となったやらせを放置していたらどうなったか。実際当番組では、センセーショナルな話題に仕上げようと、事実ではないシナリオまで作成して作為的に本物風ドキュメントを作り上げるような田舎芝居を演出していたのである。仮にこのままこの嘘で固めたシナリオが見過ごされていたら、2匹目、3匹目のドジョウが暗躍してドキュメンタリー番組は、すべてフィクションになってしまうところだった。やらせ行為を行うことに何らの抵抗感もないNHKのスタッフが、かくも堂々と似非番組を作るということにショックを受けた。だが、その反面これをやらせと告発した良識派がいたことに、取り敢えずホッとしているところでもある。
問題は、政治が今後徐々に公共放送の番組作成、編成に介入しないかということである。報道統制、報道管制の始まりとなり、報道の自由と言論の自由へ影響が及び、戦前の空気が漂い出すことが心配である。更に困ったことは、それが無意識に当然だと思っている愚かな政治家があまりにも多いことである。