これが医療に携わる人間や組織のやることかと憤慨に堪えぬ事件が明らかになった。けしからぬ事件を起こしたのは熊本市内にある「化血研」という財団である。正式名は「化学及血清療法研究所」というもので、旧熊本医科大(現熊本大学医学部)研究所を母体として終戦直後の1945年12月に設立された。ワクチンや血清製剤の老舗で、抗がん剤も製造している。インフルエンザのワクチンは国内で3割のシェアを持っていると言われている。薬害HIV訴訟の被告でもあったが、これはすでに和解している。
しかし、これほど日本の医療分野で実績を挙げている官営組織が、過去40年以上に亘って延々と虚偽の報告書を作成し、違法な薬品を製造して国や、医療機関、患者らを騙していたというのだから驚くほかない。驚くべきことに血液製剤の製造工程で、その効率を高めるために承認されていない添加物等を加えていたというから、医学治療とか薬というものをどう思っていたのか怖いと思う一方で、呆れるばかりである。
安全性には大きな問題はないとしているようだが、とんでもない考え違いである。化血研、及びこの隠蔽工作を承知していた理事長以下全理事に対して、厚生労働省は行政処分を課す方針のようだが、組織体としての管理があまりにも杜撰なのが気になる。
悪質な虚偽の手口は、紙に紫外線をあてて変色させたり、上司のサインを似せて署名したり、或いは本物と偽物とは字体を変えて誤魔化すこと等、呆れる手法を駆使していた。こんなところで製造された薬品を患者は知らずに投与されるわけである。これほど酷い話は聞いたことがない。あまりにもデタラメで、やりたい放題ではないか。
一般の企業とは違い、ここには研究者意識で技術的な面が大きく先行し、それを防止する対応が遅れていたとの言い訳があるが、それにしてもマネージメントはあまりにもお粗末で、常軌を逸した隠蔽体質と非難されるのも致し方ない。現在も継続されている薬害訴訟原告団に対しても極めて失礼である。実際彼らも決定的な裏切り行為だと憤慨している。理事長以下全理事が職を辞するようだが、辞めれば済むという生易しい問題ではない。そんな無責任な処分だけでは、再び同じような悪質隠ぺい工作が繰り返されるのではないだろうか。
しかし、こんな好い加減な財団が40年も気づかれずその悪事が放置されていたのは、所管の厚生労働省にも大きな責任があるのではないだろうか。