724.2009年5月7日(木) 山内昌之・東大教授のイスラム論

 GW中休みだった多摩大学公開講が2週間ぶりに開かれた。小雨の肌寒い中をいつも通り車で出かけ、近くの多摩市立武道館駐車場へ停めておいた。

 今日はイスラム問題専門家、山内昌之・東大教授の講演でテーマは「中東政治のねじれと‘30年戦争’-オバマ大統領に‘チェンジ’は出来るか」である。昨年9月にも山内教授の講義を受講したが、現在日本で中東問題全般について最も詳しい専門家のひとりである。いくつか論点を絞り解説された。今日の講演では、オバマの中東への取り組み、エルサレム・メディア・コミュニケーション・センター(JMCC)の世論調査結果、そしてイランの対米関係へのアプローチが面白かった。

 テーマの「30年戦争」というのは、1648年の30年戦争終結の際調印されたウェストファリア条約がほぼ現在のヨーロッパの骨組みを形成したので、1979年のイスラム革命によってアメリカとイランが断交して今年30年目になるのを機会に、イランの核武装を阻止し、中東問題を包括的に解決するためにもアメリカがイランとの対話を開始できるかとの問いかけである。

 そこで今日のポイントとして、JMCCによれば、パレスチナ人のオバマ大統領へ寄せる中東和平への期待感は28.1%に達したが、この数字だけをみていると低いように見える。しかし、歴代米大統領の中でこの支持率は最高だそうである。イランの動きを見ているとイランはイスラエルの隣国と認識すべきで、双方ともにお互いを牽制している。この両国の存在が中東の要となっている。特徴的なのは、両国が中東諸国の中で選挙により支配者を選んでいる点で、他の中東はそのような民主的な手段から支配者を選んではいない。

 イランは核と石油を持っていることを力にアフマディネジャド大統領がイランは「真の超大国」であると世界へ向かって広言した。残念ながらそのニュースは日本ではほとんど伝えられなかった。レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスを支援しつつ彼らの支持をとりつけつつある。しかし、その野心の拡大によりイスラエルにもまして、エジプト、サウジ、他のアラブ諸国の間に内部分裂の兆しが見えてきた。例えば、イランよりトルコに共鳴するパレスチナ人の数は増えている(イラン55.9%、トルコ89.6%)。これまでアラブはオスマン・トルコ時代を除いてアラブ諸国が揃って同盟関係になったことはない。内部事情は複雑なのだ。トルコへの支持が高まってきたのも、前回のダボス会議の折、イスラエルのペレス首相の一方的な演説に、トルコのエルドアン首相がケツをまくり退場したパレスチナ擁護のパフォーマンスが受けたからだともいう。

 今イランがアメリカと対話をするために、アメリカに約束させたい条件が3つある。①ハメネイ氏らシーア派の最高指導者ら宗教指導層による統治を正当化させ、体制維持と現状を追認する、②自前のウラン濃縮化の継続、これはイスラエルに対して抑止力になる、③シーア派宗教資本主義の既得権益を、アメリカのいうグローバリゼーションの大義名分で損なわない保証、の3点を約束することが国交再開の条件だというのである。

 果たしてどうか。30年の冷却期間を置いてアメリカとイランが、パーレヴィ国王時代のような蜜月時代を取り戻せるだろうか。

 それにしても山内教授はつい最近NHK「爆問」に出演した時、話す言葉が聞きにくく歯切れが悪いと気になっていたが、今日の講演では多少ひっかかったが、それほど気にならなかった。

 冒頭に戦争とか、死の現実感ということについて述べられた。昨年9月に40年連れ添った夫人を亡くされて現実に死というものに直面したと話されたが、現実的な死をあまり考えたことがないだろう聴講学生には果たしてどう響いただろうか。

2009年5月7日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com