一昨日北アルプス・奥穂高で遭難しかかっていた登山者を、救助のために向かったヘリコプターが転落して操縦者を含む同乗の3人が死亡した。現場は険しいジャンダルム近くで、上空から撮った写真を見てもいかにも手ごわい山というように見える。あのジャンダルムは学生時代に1度だけ通ったことがある。痩せ尾根で左右を見れば、ぐっと下まで落ち込んでいる。あまりぞっとしない登山路だったが、険しいだけに逆に関心は高まった。今でも北アルプスの山々を歩いた学生時代の登山が懐かしく思い出される。
ヘリ事故で転落寸前にヘリから降りた2人の救助隊員は、遭難しかかっていた登山者の救助に当ったが、その直後にヘリが墜落したので辛くも難を逃れた。しかし、登山者は心肺停止のまま息を引き取った。批判を恐れずに言えば、結局この救助活動は犠牲者を出しただけで、無駄に終ってしまった。
今年は山の遭難事故が目立つ。それも高齢者の遭難が多い。先般の北海道・大雪山のツアー登山による大量遭難死は大きな社会問題となった。登山に対する関心が高まったこと自体は決して悲観すべきことではないが、何でもかんでも健康とか、福祉のためとか言って前向きに捉えがちである。逆の側面を考えてみることも必要ではないだろうか。今後各方面で登山のあり方を検討してみることが大切である。
1人の遭難者救助のためにヘリまで飛ばして多くの人たちが手分けして救助活動に当たる。その1人の登山者の無理な行動が、結果として当事者である登山者を含めて尊い4人の生命を奪い、ヘリコプター1機を失い、国土交通省、岐阜県警、消防署、医療関係者を心配させ混乱させて、まだこれから原因究明のために時間をかけて調査を行うことになっている。人的にも経済的にも大きなロスである。
随分大きな騒ぎになり、犠牲者まで出し、結果的に失うものが多い。登山では、ひとりの行動がいかに大勢の人々の協力を求めることにつながり、迷惑をかけ、下手をすると犠牲者まで出るということをもっと世間に啓蒙する必要がある。
先日もNHKで立山雄山から槍ヶ岳へ至る表尾根をずっと映し出していた。懐かしい光景が次から次へ展開され、気持ちだけはまた北ア表尾根コースを歩いてみたいと思わせてくれた。山は行ってみなければ、その魅力は分からないし、虜になる原因も分からない。
しかし、空気の澄んだ登山道をひたすら歩き、苦労の末に目的地へ達した時の感激は歩いた者でないと分からないだろう。山の魅力は登った者でないと分からないが、身近なところに大きな落とし穴があることも今回のヘリ墜落事故は改めて教えてくれた。