一般に「天下り」と呼ばれる、支配下の組織、或いは影響下にある組織に対して、人材を送り込む歓迎されざる習慣が国の役所を中心に、多くの組織で堂々と、或いはこっそりと行われるケースが間々ある。特に監督官庁からの天下りには、文句を言えず、泣く泣く受け入れる企業もあるようだ。天下りしても地位に就いているだけで権限を持たないならともかく、天下ったご当人が組織内の上司として組織の細かい箇所まで取り仕切る場合には、的外れもありパワハラもやりかねない。
最近あまり伝えられていない天下りが、今2つばかりやり玉に挙げられている。ひとつは、日本銀行である。銀行の中の銀行として、銀行界の頂点に立ち、日本の金融界をリードしているだけに職員のエリート意識も並外れているようだ。職員の給与もかなり高く、定年後に雇用延長制度により「エキスパート職員」として、月20日勤務で月給約70万円とされる。しかも福利厚生施設が充実している。日銀マンは、高給や手厚い手当の他に、高額な企業年金や地方銀行などへの天下り先まで用意されるケースがある。日銀の優越的地位を利用した天下りは、金融証券界に枚挙に暇がなく受け入れ側では、困惑しているケースもあるようだ。
もうひとつの天下りは、外交官の退官後の就職先である。修士号も持たない外務官僚が、退職後に大学教授ポストを複数も掛け持ちする風潮に、学界から反発が出ているという。そのしわ寄せで、博士号を取得しながらポストがなく、コンビニなどで働いているケースもあり、外交官がポストを奪うのは罪深いと陰の声があるくらいである。
一例を挙げれば、昨年退官した垂秀夫・前中国大使の如きは、立命館大学教授、慶應義塾大学特別招聘教授、北海道大学客員教授のポストを手に入れた。退職金は推定約8千万円といわれている。しかも、自らのHPに個別企業の講演依頼は「謝礼金30万円以上」と明記して、その厚かましい強欲ぶりを曝け出したのには呆れている。他にも在任中に特別の外交成果があったわけではない、前ロシア駐在大使を8年間も務めた上月豊久氏は、ロシア軍のウクライナ侵略のビッグ情報をベラルーシ大使館が事前に通報しても、親ロ派の上月大使は、そんなことは有り得ないと外務省に情報を封印させた。それが今年11月のロシア・東欧学会で暴露され顰蹙を買った人物で、大学で複数のポストを掛け持ちしているが、教鞭をとる資格があるのかとの疑問を持たれている。
民間企業が、親会社から子会社への出向という名の天下り的異動は、同じグループ会社内で割り切って経営上の責任を負っている事象なので、外部からとやかく言える問題ではない。しかし、監督官庁とか、お得意先からの押し付けによる外部人事の受け入れは、働くスタッフにとっては歓迎されるものではない。現状のままで果たして良いものだろうか。
最近斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラ問題が大きな話題となったが、その奥深い背景には、斎藤知事自身の経歴に依るところが大きいと思う。東大卒業後、エリート官僚として総務省に入省し、その後佐渡市、宮城県、大阪府に出向して地方で天下りにより殿様扱いされる甘い味を覚え、その後のパワハラ役人道を歩んだようだ。
天下りなんて、送り出す側に若干人員削減のメリットがあるとは言え、受け入れ側にはメリットよりデメリットの方が大きい。いつまでも続けていて良いものだろうか。