最近中国で唐突に通行人が襲われる死亡事故が頻発している。これは日本人にとっても他人事ではなく、今年6月に蘇州市内でスクールバスが男に襲われ、日本人母子がケガをしたが、この時彼らを庇った中国人女性が殺害された。そして9月には、深圳市内の日本人学校へ通学途上の日本人男子児童が男に刺されて死亡した。相次ぐ殺傷事件に、中国各地の日本総領事館では外出の際の注意を呼び掛けている現状である。
今月11日には、広東州珠海市内で市民らの中に車が突っ込み、大惨事を引き起こした。35人が死亡し、43人が負傷した。車を運転していた62歳の男は、その直後に自殺を図り意識不明であるが、原因は離婚後の財産分与に不満を募らせたからであると憶測されている。
続いて、昨夜江蘇省の専門学校で21歳の男が学生らをナイフで次々に切りつけ、8人が死亡し、17人がケガをした。男はこの学校の卒業試験に不合格となったうえ、実習生として働いていた工場の報酬に不満を持っていたと言われている。
これらの事件の背景には、中国経済の悪化による社会不安があるとされ、市民に対する無差別な殺傷事件に、習近平国家主席も取り締まりに全力を挙げるよう指示した。ただ、あまりにも見ず知らずの他人を死に巻き込むような理不尽で不名誉な事件の連続的な発生には、治安当局も頭を痛めているようだ。珠海や江蘇省の事件の跡地には、多くの花束が捧げられていたが、治安当局はこれら献花をすべて強制的に撤去する始末で、事件が不安を高めることを警戒して何事もなかったかのような現場にしている。市民の間では、同情の声が絶えない。ソーシャル・メディアなどからは事件から時間が経過しても一向に事件の詳細に関する発表がないと批判的なコメントが伝えられている。
中国政府としては、突発的に市民の間に暴発した悲惨な事件であるが、その背景に経済の悪化があるとの不安を煽る情報が伝染することは、共産党1党独裁の習近平政権にとっては、望ましいことではない。また国民の不満が政府に向けられることを避けたいとの狙いで、悪いイメージが拡散するのを抑えつけようとしているようだ。不動産市場が不況のせいで、経済が全般的に下り坂であるが、中国経済は今では世界でも1、2を争う経済大国にのし上った。政府の匙加減次第で今頓挫していてもこれからも発展を続けるだろう。しかし、自由と民主化の面で国民を抑圧している現中国政府の言動から考えると、現状がいつまでも続けられるとは到底思えない。もう少し他国の行き方を見習い国家権力が出過ぎないよう対応した方が良いのではないかと思う。
偶々今日の朝日朝刊の訃報欄で、元中国大使阿南友亮氏の死を知った。終戦前夜に割腹自決した阿南惟幾陸将の子息である。阿南氏の友人を通して氏がサントリー学芸賞を授与された著書「中国はなぜ軍拡を続けるのか」をいただき、中国共産党の1党独裁政権の政府と軍との関係にメスを入れた分析に感銘を受けたものである。ご冥福を祈っている。