「文藝春秋」十月号の「丸の内コンフィデンシャル」に「パナ低迷の要因は」と題してパナソニックホールディングス㈱の経営が頓挫している話題を取り上げている。これは意外だった。弱電機業界の中でもその先陣を切り、経営環境もトップを争っているものとばかり思っていた。パナソニックの凋落が最近顕著なのは、時価総額がライバル社に比べ大分低迷しているからのようだ。現在のパナの時価総額は、3兆円前後だが、かつてトップ争いをしていた2社、ソニーグループの約17兆円、日立製作所の約15兆円から大きく水をあけられている。国内の電機大手7社の中で実質的には倒産したも同然のシャープ以外は皆パナの上位にいる。ひとり負けの状態である。
松下電器産業の創業者・松下幸之助氏の経営指揮の下に、時代に即応した新規製品を次々と企画製作、販売して業界のトップに君臨した企業がこのような悲哀を味わうようになるとは、企業の経営は難しく外からは中々分からないものである。今の経営陣に時代を読む取る洞察力が欠けていたのではないかと思う。
グループ経営上最大の誤算は、省エネの電気自動車(EV)の電池製造に力を注いだが、生憎アメリカ市場でEVの需要が減少し、国内工場の稼働率が下がったことが大きく影響したようだ。更に、経営停滞には、それ以上に社内事情に原因があるようだ。2021年に就任した楠見雄規現社長が、一昨年パナソニックを持株会社にしたことが失策だったと指摘されている。その理由はよく分からない。その結果事業会社に権限を大幅に委ね、事業会社への統制が効かなくなったからだそうだが、こんなことが現実にあり得ようか。
経営悪化の影響も考慮してだろうか、トヨタ自動車、ブリジストン・タイヤとともに、2014年以降オリンピックのメイン・スポンサーだったパナソニックは、これら2社とともに28年ロス大会からスポンサーを降りるという。
パナソニックの創業者・松下幸之助氏は、何事にもパイオニア精神とチャレンジ精神に溢れ、当時誰もあまり目を注がなかった日本人の人材育成に力を入れ、育った優秀な人材を社会へ還元したことだった。そのひとつの表れが、「松下政経塾」の設立であり、優秀な人材を世に送り出すことだった。今から40年余り前に「知的生産の技術研究会」の会長や会員らと、湘南辻堂の海岸近くにある政経塾を見学したことがある。当時はまだ半信半疑の気持ちでいたが、あれから半世紀近くが経ち、多くの人材を世に送り出した。特に政界で活躍している国会議員の中に塾出身者が多い。
その松下政経塾出身者に自民党総裁選の決戦投票で敗れた、高市早苗議員がいる。確かに素質面では人材としては優秀であろう。ただ、あまりにも極右的言動が危な過ぎて、決戦投票で彼女への投票を手控えた議員が多かったことでも分かるように、強引で他人の意見をあまり斟酌せずに保守的自己主張を繰り返す。一方で、このほど立憲民主党代表に選出された野田佳彦議員も卒業生のひとりである。松下氏の願いが叶ったのか、政界に人材は輩出された。この2人は対立する関係にいるが、お互いに松下精神を理解して世の中に奉仕するようなことが出来るだろうか、パナソニックの業績とともに、政治家2人の行動も注視したいと思っている。