今日耳をそばだたせる大きなニュースが2件あった。
ひとつは、今月19日に兵庫県議会で不信任案を可決された斎藤元彦知事が記者会見を開き、知事を失職することを発表したことである。もうひとつの選択肢である県議会解散の手段は取らず、50日以内に行われる知事選で改めて信を問うという。じっくり考慮したとは言うものの、これまでの言動を考えると誰が考えても県全会派と全県議員からノーを突き付けられたほど信頼を失った斎藤知事が、次の知事選に出馬しても再び当選するとは思えない。3年前の選挙では、日本維新の会と自民党から推薦・支援されたが、不信任案提出の際には、その維新と自民からも愛想を尽かされている。そういう点を考えたのだろうか、組織の支援を受けず自分ひとりで戦うと意気込んでいるが、人間的にもあまりにも思いやりに欠ける性格を県民はどう思うだろうか。知事のパワハラにより自死を選んだ元県局長やご家族に対して、お詫びやご冥福を祈るような言葉が今以て一言もないことでも分かる。仮にもし知事再選ということにでもなれば、兵庫県民の良識が疑われるのではないだろうか。
もう一つのニュースは、1966年に静岡県清水市で一家4人を殺害したとして死刑の判決が確定した袴田巌さんに対する再審の結果、静岡地裁は無罪判決を言い渡した。死刑囚に対する再審の無罪判決は戦後5件目である。過去の4件は検察側の控訴もなく、それで裁判は決着した。今回無罪判決とされた捏造のひとつ、事件現場から見つかった血痕が付着していた5点の衣料が、これまで警察・検察から犯行の際着用していたものとされていたが、弁護側が捜査機関によって捏造されたものであると無罪を主張していた。
裁判の冒頭に、裁判長は「証拠に3つの捏造が認められる。袴田さんを犯人であるとは認められない」と述べ、有罪の決め手とされた5点の衣類や過去の裁判で自白の任意性を認めていた1通の調書などを、すべて捜査機関が捏造したものだと判断した。
日本ペンクラブから早速本件について今日午後4時前に、「今日の判決で裁判所が、検察側が提示した有罪の最重要証拠について、捜査機関によって捏造されたと認定したように解明・解決されなければならない多くの問題を浮き彫りにした」として、「いますぐ再審制度の抜本改正を」と声明を発したとメールにより連絡があった。
事件発生以来58年の長い時間が経過して、これで問題が解決したわけではなく、検察が今後控訴するかどうかに掛かっている。検察OBの中には、控訴すべしと訴えている弁護士らがいるようだ。袴田さんもすでに88歳となり、当初から身の回りの面倒を看ていた91歳の姉ひで子さんをはじめ、袴田さんを支援する多くの力に支えられ今日の判決を勝ち取ったと言えよう。それにしても支援した人たちの中には、自身自宅放火、殺人などの罪で無期懲役から再審で無罪になった女性や、10年前には静岡地裁の裁判長として再審と釈放を認める決定を下した元裁判官、元東洋太平洋バンタム級チャンピオンら異色の人が多い。私自身1960年ごろ後楽園ホールで袴田選手が、打たれても打たれても前進する勇ましい試合ぶりを観戦したことがある。想い返すとあの当時は、よくボクシングの試合を観に行った。17歳で東洋ライト級チャンピオンとなった沢田二郎選手のタイトルマッチや、フライ級世界チャンピオンとなったファイティング原田選手の試合なども観戦した。それが縁となったわけでもないが、偶然にも原田選手の息子さんとわが家の次男が小学校の同クラスで、父親参観日に席を共にしたこともある。
袴田さんも精神的なショックと高齢のために今では必ずしも健康状態は優れないようで、今日も元気なお姉さんが代理人として出廷しながら、本人はいつも通り自宅で静養していた。
願わくば、今後検察側が控訴をせず、一連の裁判を終結させて欲しい。