昨日自民党総裁選が告示された。過去最多の9人が届け出たが、出馬の意思表示をしていた斎藤健・経済産業相と青山繁晴・参議院議員の名前がない。2人とも20人の推薦人が集まらなかったようだ。
昨日早速各テレビ局では、9人揃ってTV 討論会を行った。それをずっと観ていて思ったのは、司会者が憲法改正をすでに全員了解済で、その内容は自衛隊について明記するとか、第9条第2項「戦力を保持しない」の条文を削除することも了承済であることを暗に伺わせるような話だった。この討論会を観ていて自民党内では、すでに憲法改正は既定路線で、ほとんどが憲法の条文を検討する段階にあることを察して、驚いている。
口では平和憲法を守ると言いながら、彼らはこの太平洋戦争の犠牲のうえに生まれた戦争放棄の平和憲法を今では蔑ろにしつつある。それは彼らがまったく戦争を知らない世代で、戦争の惨めさや苦しみ、辛さに気が付かないからだ。恐らく身内に戦死者もおらず家族が悲しみに暮れて涙を流したような姿に接していないせいもあるだろう。高市早苗・経済安全保障相を筆頭に攻撃されたら仕返し、そのために予め準備を整えると安易に述べるが、そこには取り返しのつかない犠牲が伴うことをまったく考えてもいない。
司会者がどう考えているのかはっきりしないが、憲法の中身は二の次にして、憲法改正自体について各候補者に問い、国民に知らせて欲しいものである。候補者の中には、自然災害の際に自衛隊の救援作業隊の活動がいかに国民に安心感を与えているかを考えると、そのための防衛費の増額も国民が納得していると身勝手なことを語っていたが、都合の好い認識である。むしろこのような国民に知らされていないアイテムについて、憲法問題を取り上げるなら、先ず憲法改正の議論を進め、国民投票を行い、その後に仮に改正することになったら内容をどうするかという順番で議論を進めないと、国民のほとんどが知らない間にすべて自民党の筋書きに従って国民としての意見が出来あがってしまうように思う。
戦争が起きたら何の抵抗もしないのではなく、ただ日本人として襲われたら仕返しするためには軍備が必要であると述べるだけでは第3次世界大戦開戦も目の前にあると言わざるを得ない。その点から国会議員が「戦争」、「戦争」・・・と単に喚くだけでなく、地道な議論を進めるべきである。何か事があると靖国神社に参拝して太平洋戦争でお国のために尊い命を捧げた戦没者に哀悼の誠を捧げ、尊崇の念を表すとこともなげに言うが、靖国神社には無念にして戦地で亡くなった犠牲者の他に、大日本帝国軍国主義に浸り戦争を主導したA級戦犯も祀られていることを考えるべきである。戦争を否定しない自民党議員らの行動が、保守派、右翼勢力に力をあたえているようだ。
ともかく自民党総裁選では、現在までに憲法改正について発言した候補者はいない。これほど国民の関心が高いテーマを党内で内々に議論し、決定してから公にするのではなく、この総裁選という良い機会にこれから大きな日本の課題のひとつとして、それぞれが憲法について考えを公表し議論を戦わせて欲しいものである。
もう1点気がかりなことは、国家財政赤字問題である。今年度末には、普通国債残高は、1,105兆円に達すると見込まれている。これは先進国の中でもずば抜けて多い。しかも年々歳々増え続けている。近代経済学者の中には、これも経済成長の証であり自然体であるような説を唱える学者もいるが、家計で赤字が溜まれば生活が出来なくなるのと同じで、国も早めにその赤字国の泥沼から抜け出す手段を講じて実行しなければ、未来は暗いものとなる。候補者の中には、あまり経済に強い人がいないせいか、財政再建について意見を述べる候補者はいない。
まだまだ彼らが総裁、首相になって国をどう引っ張っていくのかイメージが湧いてこないが、これから2週間の間に彼らは自らの政策構想を理念と実行性で少しでも肉付けすることが出来るだろうか。