6234.2024年9月6日(金) 日米の大手企業買収問題の行方

 このところ俄かに注目を集めている経済的、かつ政治的な問題がある。それは日本製鉄㈱によるアメリカの大手鉄鋼会社「USスチール」買収計画である。昨年12月両者間で約2兆円の買収に合意していた。しかし、買収案は全米鉄鋼労働組合(USW)や、労働者らの反発を招いた。そこへ大統領選が近づくにつれて、政治的な干渉により支障が生ずるようになった。外資によるアメリカ企業の買収案を調べる対米外国投資委員会(CFIUS)が、アメリカの鉄鋼生産に打撃を与える安保上のリスクになると日鉄側に伝えていたという。
 それが、アメリカ大統領選の影響により、政治的な動きが目立ち始め、当初トランプ前大統領が絶対買収を阻止すると公言していた。それが最近になって民主党大統領候補者ハリス副大統領も買収計画に反対の声を上げ、更に、バイデン大統領も買収を認めないとの発言をすると外電は伝えている。これには、USスチールがピッツバーグ(ペンシルベニア州)に本拠を置き、ペンシルベニア州で大統領選に民主・共和両党が拮抗の選挙戦を展開し、買収に反対の従業員と、同州の選挙人獲得を意識した行動に出たためと考えられている。

 USスチールと言えば、現在粗鋼生産で世界27位とやや振るわないが、従業員2万人を超えるマンモス企業で、かつては世界最大の企業として知られた老舗の大企業である。

 しかし、この政界とは一歩離れた経済界の民間企業の経営に関して、アメリカ政界のトップを争うボスたちが、異を唱え、その渦中へ飛び込み騒ぎ立てるとは、自由競争を奨励している資本主義国政府のやるべきこととは思えない。自らの大統領選絡みで、経済界に口出しして外国の自由な投資にブレーキをかけさせるなんて行為は、自重すべきであり、自由主義、民主主義を標榜している資本主義国家として情けない。果たしてこの結論はどうなるのだろうか。日鉄は、アメリカ政府が法に則り、適正に審査されるものと信じているとコメントを発したが、アメリカ国内の日本企業約70社で構成する日米経済協議会は、CFIUSが審査プロセスを政治的に利用する試みには多大な懸念があり、審査を厳正に進めるよう求めるとの声明を出した。その一方で、日本政府からは何らの声も聞かれない。

 そんなニュースが話題になる一方で、その逆のケースも発生している。流通大手の「セブン&アイ・ホールディングス」が、カナダのコンビニ大手「クシュタール社」の買い取りの提案について、買収価格が低く受け入れられないと回答するという。買収価格は5兆5千億円で、上記の日鉄のUSスチール買収額に比べれば、かなり高額である。

 「クシュタール社」はコンビニ事業ばかりでなく、北米とヨーロッパを中心にガソリン・スタンドも経営し、30か国に1万6千店を超える店舗を抱えている。昨年度の売上高は、日本円でおよそ10兆円もあり、その内7割はガソリンの売り上げである。

 日本の「セブン&アイ・ホールディングス」も、これまでアメリカで積極的な買収により事業を拡大してきた。国内でコンビニ事業を成長させた「セブン&アイ」は、アメリカの「7-ELEVEN」の株式を取得して完全子会社にし、営業利益11兆円の内およそ7割を北米市場で稼いでいる。だが、「クシュタール社」の買収持ちかけの狙いは、「セブン&アイ」が所有するアジア地域の7万弱の店舗で、アジア戦略で遅れを取っている「クシュタール社」としては、この7万の店舗を得ることによってアジアの市場を抑えることが出来るとの腹がある。

 クシュタール社の申し出通り買収が実現するかどうか、果たしてクシュタール社の思惑通りことが進むかどうかは不明である。

2024年9月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com