先日襲来した台風10号が、日本各地に多くの被害をもたらした。その中でも最大の損害は、屋久島の樹齢3千年と言われる屋久杉の幹が強風により破壊され倒れたことで、多くの人々、特に地元・屋久島の人びとを失望させている。
屋久杉は1993年に白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録された。その直後に現地を訪れ、大きく立派な屋久杉に見とれていたことを想い出す。こればかりは元通りに修理、回復させるわけにもいかず、屋久島にとっても最高の観光資源だっただけに、これからどうするのだろうと些か気がかりである。
自然界の不意打ちの襲撃にはとても太刀打ち出来るものではないが、最近自然の木材の腐食による建築物の劣化が問題になっている。世界的に知られた建築家・隈研吾氏が設計した栃木県の「那賀川町馬頭広重美術館」が老朽化によりかなり痛んでいることが分かった。特に外部と接する屋根と外壁には栃木県特産の八溝杉を使ったが、完成以来24年が経過してその劣化が大分進み惨めなものとなった。改修するためには、約3億円もの費用が掛かると見られ、その資金が頭の痛い問題である。
「那賀川町馬頭広重美術館」は、1民間人によって歌川広重の肉筆画や、版画、徳富蘇峰の書をはじめとする浮世絵、工芸品、書籍など多数寄贈された作品、そしてそれらを展示するために建てられた木製の建物と庭園が見事に調和した美術館として県内外から多くの見学者が訪れている。
町立の美術館だけに、財政的にもそれほど楽ではない中で、町としてはシンボル的な建物でもあり、来年開館25周年を迎える機会に、那賀川町としては何とか改修費用を工面して町民が誇りとし、再び観光客を呼べるような施設に回復させたいと考えている。
隈研吾氏設計の建築物は、自然の素材としてよく日本の木材とか、竹が使われる。ただ、これらの素材は厳しい自然に弱い点もあり、主に自然界の試練から逃れられる建物内部の建築資材として使用される。東京オリンピック招聘を機に改装されることになった東京信濃町の国立競技場も隈研吾氏の設計である。当初デザイナーが隈氏と発表された時には、これまでコンクリート製だった競技場に木材を使用することによって耐久性を懸念したことがあった。幸い国立は屋根の下の部分に木材を使用したので、直接風雨に晒されることがなく、大きく傷つくことはなかった。しかし、これとて間接的には風雨を受け止めているので、いずれ時が来れば寿命が尽きることだろう。
屋久杉については、自然界の襲来に晒され食い止めることは出来なかったのも止むを得ない。しかし、建物に使用された木材などが直接自然界の脅威を浴びれば、痛むことも分かる。建物の建設については、財政的に余裕のない自治体は、著名なデザイナーの特殊な建築に捉われず、名より実を重視して耐用年数の長い建築物を建設するのが財政的にも助かるし、妥当なところではないだろうか。
蛇足ながら、「那賀川町馬頭広重美術館」の「馬頭」の意味が分からず調べたら、「栃木県那須郡那賀川町馬頭」という地名から名付けられたそうだが、那賀川町までで充分で地区名まで付ける必要があるのだろうか疑問である。ただ、それほどこの美術館は土地の人びとにとって「おらが町」の自慢できる誇り高い「宝物」なのだろう。