去る14日岸田首相が、来月行われる自民党総裁選に出馬しないことを公表した。岸田政権の支持率は一向に上がらず、本人は精一杯任務に励んでいると思い不本意な思いであろう。だが、いくら動き回っても支持率は上がらず、辞めるのもこの辺が潮時だろうと思う。致命的だったのは、昨年自民党派閥の裏金問題が公になって、根底に派閥問題があったことである。麻生派を除き、岸田首相も派閥を解消したが、党員へ党員資格の剥奪や、離党勧告などの制裁を課していながら、自らへの責任は問わず、また旧統一教会問題の対応もうやむやのままである。それがどういう風の吹き回しか、不出馬発言の中で裏金問題の責任を取るとの発言があったが、あまりにも遅すぎる。少々ピントがずれている印象を与えた。
いずれこの時が来るだろうと思いながらも、虚を突かれた次の総裁を狙っていた面々も内心慌てているようだ。まだ、正式に出馬宣言をする議員は分からないが、メディア報道によれば、出馬意欲のある議員は現状で11人だという。過去の総裁選では、出馬したのは5人が最多であり、残り1か月でどういう経緯を辿り、誰が次の総裁に選出されるか興味深い。
さて、先日バングラデッシュで大きなデモが起き、多くの死傷者を出す事態となり、長年絶大の権力を行使していたシェイク・ハシナ前首相が、国外脱出してノーベル平和賞受賞者のモハマド・ユヌス氏が首席顧問として暫定政権を管理しているが、90日以内に首相選出のための総選挙を実施し、新しい首相を選任する。バングラデッシュの政治がどうなるか懸念はあるが、バングラデッシュ以上に今後の政局運営が気になるのが、タイである。
タイでは、14日憲法裁判所がセター首相に対して即時解任を命じる判決を下した翌々日、議会で新たな首相を決める投票が行われ、最大与党「タイ貢献党」党首でありタクシン元首相の次女ペートンタン氏が選出された。新首相はまだ37歳で歴代最年少であり、如何に英才と言えども、複雑な要因が政治を混乱させている国内政治を安定させることが出来るだろうか、指導力と政治力が問われる。タクシン元首相家系では4人目の首相になる。インラック元首相の姪でもある。タイ国内には政治的な不安定要因があり、軍がかなり政治に影響力を持つだけに、いかに英才であろうとも政局運営は難しいと思われる。10年前のクーデター以降、タイでは軍に近い政権が続いていた。漸く昨年の総選挙で、幅広い階層から支持を集めた民主派政党「前進党」が予想を覆して第1党に躍進した。ところが、王室への不敬罪の改正や、軍の影響力の排除などを主張する前進党に対して保守党が反発し、前進党は連立政権の枠組みから外れ野党に転じた。こういう政治的混乱の中で、海外亡命生活を送っていたタクシン元首相が15年ぶりに帰国してタクシン派の「タイ貢献党」と行動をともにし、次女を同党党首に抜擢したのである。すべて父親の敷くレールの上を歩いてトップの座に就いたものであり、その政治的力は未知数である。なぜか再び大きな政治的転換の局面が現れるような気がしてならない。初めて出かけた海外旅行先がタイで、その時のタイの人びとの優しさに触れたことが、タイに心を惹かれるようになった理由である。どうも気になるこれからのタイ国内の政治的不安定さである。