いま評判の映画「少年H」を観た。今朝の朝日紙上にコラムニスト天野祐吉氏がエスプリの利いたコメントを書いている。天野氏はこう言っている。「近ごろは『人類の危機』とか『地球の崩壊』とか、資金力と技術力にモノを言わせたハラハラドキドキ大作がハヤリだが、いま切実なのは『人類の危機』より『人間の危機』であり『地球の崩壊』だろう。で、戦争はそんな人間性の危機や崩壊をもたらす最大のものだということを、『少年H』はあらためて実感させてくれる」。なるほど。
確かに庶民の生活感覚で厭戦気分を伝える映画というのはあまりないように思う。欲を言えば、最後の場面でHの鋭い問いに対して父親が丁寧に応えなかったことから父子が言い争い、自殺を試みるが失敗し、一転変心する気持ちの葛藤や改悛に至る過程が心理的に充分描写されていない点がやや物足りなかった。父親が中学生のHに対して「あんた」と呼んでいたのも不自然な感じがした。しかし、全体的には戦時色がうまく表現できた作品ではなかったかと思う。米軍空襲や焼け野原のシーンも中々よく描けていたと思う。
今夏は他にも戦争関連の映画がいくつかあるが、いずれも評判がよろしいようだ。
もう実際の戦争はゴメンだという声が圧倒的だが、他方で現実には戦火拡大の様相を見せている地域がまだまだある。
先日エジプトで暫定政府が、2年前の「アラブの春」で身柄を拘束されたムバラク前大統領の身柄保釈を決定したこともそのひとつである。反体制派のムスリム同胞団の力の低下を狙い、宗教団体の政治活動の禁止を決定したのである。暫定政府は反対派の行動を徹底的に弾圧する行動に出た。現在双方の対立はやや沈静化しているが、イスラム同胞団にとって政治活動の禁止は死活問題であり、デモは再燃の火種を抱えている。早晩再び紛争が勃発し過激化するのは避けられないだろう。
もうひとつ緊急問題化しつつあるのは、シリア内戦問題の過熱である。ついに化学兵器を使用したとの疑惑が広まり、国連調査団の調査結果とアメリカの目撃証言と科学的証拠を分析した結果、シリア政府の化学兵器使用の疑惑は深まり、アメリカと英仏がシリアへ軍事介入の構えを見せている。地中海沿岸にはすでにアメリカの艦隊が集結し、いつでも攻撃できる態勢にある。アメリカの高官はここ数日が勝負と見ている。危機一髪の状態に追い込まれたが、まったく世界には争いが絶えない。もううんざりである。
当分シリア情勢から目が離せない。