5957.2023年12月13日(水) 旧日本軍兵士の「戦争トラウマ」

 今月8日は太平洋戦争(開戦時:大東亜戦争)開戦記念日だった。今ウクライナへのロシア軍の侵攻、そして2か月前からイスラム過激組織ハマスの砲撃に始まるパレスチナ・ガザ地区に対する、イスラエル軍の仕返しによる容赦ない攻撃で多くの犠牲者や被災者が出ている。連日メディアが細かく伝えているが、小さな子どもや赤ん坊が傷ついて泣き叫ぶシーンはとても観ていられない。戦争は悪魔のようなもので、多くの犠牲者を生み悲惨な跡形しか残さない。その跡形について、朝日朝刊で一昨日から今日まで3回に亙り、「戦争トラウマ」とのテーマで戦闘に参加したことにより、戦後トラウマに捉われた旧日本軍人と日常生活をともに送った家族が父親の心荒れた家庭内生活をドキュメンタリー風に取り上げている。私自身30年近くに亘り旧厚生省の戦没者遺骨収集事業に携わり、また、各戦友会の戦跡慰霊団で旧戦地を幾度となく訪れ、戦争に直に関わった人々や、遺族の方々から話を伺っているのでとても他人事とは思えない。

 3回連続の「戦争トラウマ」では、第1回目で、歌手の武田鉄矢の父親が中国戦線で多くの中国人を日本刀により殺害し、復員後酒に気を紛らわせては家の中で暴れ回ったという。武田鉄矢の名は、は父親から武器の「鉄」と「矢」を取って名付けられたそうだ。2回目に、中国や朝鮮で戦い戦後は家庭で酒浸りに陥り最後に自殺してしまった長野県の女性の父が紹介されている。そして今日紹介された3回目のケースは、首都圏に住む男性のケースで、父が開業医だったが、旧日本軍の細菌戦部隊「731部隊」の医師として従軍し、戦後は酒や薬物に溺れるようになり診療所は休業状態となり、生活も困窮した。大学へ進学したが、父への反発などもあり、うつ病になって大学を中退した。そして終戦35年後に父親は自殺した。いずれもお気の毒としか言いようがないが、戦争とは力の優劣などには関係なく、最前線で死闘する兵士の誰の心をも残酷に蝕んでいくもので、中々正常な心を保つのは難しい。

 私の父親も赤紙徴兵され、朝鮮半島へ出兵したが、幸か不幸か病に罹り除隊して復員したので、肉親にそのような悲劇はない。だが、随分同じような悲劇を聞いている。戦争では、従軍兵士はもとより、残された家族にとってもいつまでも心の傷となって家族にも同じ苦しみを与えるものだ。

 大分前から気になっていたのは、最近防衛力強化策として防衛省の一般会計予算が雪だるま式に膨らんでいる。自衛隊が重装備をし、敵基地攻撃能力などを備えて、誕生したころの警察予備隊とは名ばかりで、国際的にも軍隊として引けを取らない軍事力を備える実質軍隊となったことである。昨今は、憲法改正論議も盛んであるが、憲法第9条第1項に「戦争の永久放棄」を、第2項には「陸海空の戦力と交戦権の不保持」と「交戦権の否認」をはっきり表示しているが、今ではこの9条はあまり守られていない。日本の防衛政策は、明らかに憲法違反である。この息苦しさから逃れるために、80年余世界に自負していた平和憲法を、戦時憲法に変えて堂々と戦争準備を始めようとしている。

 このまま行くと遠からぬ将来、日本が再び戦争に首を突っ込むことは容易に想像出来る。特に、現在の政治家たちは、戦争を知らず、特に実戦を全く知らない。そのため戦争を怖いものだとの認識が身体全体で分かっていない。戦争の臨場感がなく戦争を机上でやっているようなものである。

 実は、いま日本ペンクラブが、会員に「明日の言葉」というテーマで寄稿を呼び掛けている。「臨場感で戦争の怖さを知る」ことをアピールするために、「臨場感」について寄稿文を考えているところである。

2023年12月13日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com