5920.2023年11月6日(月) イギリスで粋な飲み屋・パブが激減

 イギリスへ行くと必ずといってもいいくらい、夕方には大衆酒場のパブへ立ち寄っていたものだ。雰囲気も好いし、安全で、単なる飲み屋ではなく、文化の寄り集まるところと言った感じである。文化遺産とも言われるくらいイギリス人に愛されて来た。まだ現役中に旧文部省の教員海外派遣団のお世話をしていた当時、毎年1~2度はイギリスへお供したものである。ヨーロッパでは、ホテル内の朝食以外は昼・夕食はいつも自由だったので、慣れない先生方をお連れして度々パブに入ったことがある。居心地が良かったことを覚えている。

 コロナ渦が拡大した最中にスキャンダルで名を馳せたジョンソン元首相が、パブでパーティを開いて物議を醸したこともある。パブでは食事も提供してくれるので、手軽に利用できる。それはロンドンばかりではなく、地方都市にも多くのパブがあるので、便利である。

 ところが、月刊誌「選択」11月号に掲載された「『英国パブ』絶滅の一本道」を読んで少なからずショックを受けた。それによると今イギリスではパブの数が大分減っているという。一説には、2000年にはイギリス中で6万店以上あったパブが、20年後の2020年には、何と4万店以下に減少したというからパブ好き、酒好きには耐えがたいのではないだろうか。パブ減少の理由は、イギリス人が外ではなく、家で飲む人が増えたということと、近年若者があまりパブに寄り付かなくなって客足が伸びていないイギリス人の生活慣習の変化が挙げられている。

 しかし、パブが閉店、廃業する裏には、こういう表面的な事情だけではなく、実は、大手の金融会社と不動産会社が関わっていることが指摘されている。そもそもパブは人通りの多い賑やかな場所に店舗を構えている例が多い。不動産物件としてパブのある土地をごっそり買い上げて地価高騰を待っているのだという。例えば、タイムズ紙はアメリカの大手投資会社のモルガン・スタンレー社が、パブ経営大手のストーンゲート・グループからパブ1千店の買収計画があるとつい最近報じたばかりである。その買い取られたパブはどうなるのかというと、その地区の一等地にあり、ロンドンなどでは高級マンションに変身する。しかもかなりの高値で、あっという間にマンションは売れるという。こうして文化的名残のあった落ち着いた飲み屋パブが、姿を消し、跡地に高級マンションが建つ。国の経済としては、特に失うものはないが、ちょっと息抜きに通う伝統ある飲み屋がなくなり、リッチな階層が居住する高級マンションが増えることに一抹の悲哀がある。

 実は、昨日コロナ・ワクチン接種の帰途、自由が丘駅周辺のレストランで妻とランチをいただいていたが、車も通らないような狭い道路を隔てた向こう側に、日本蕎麦店、北海道蕎麦店、バー、イタリアンレストランなどがびっしり並んでいた。いずれも店の外まで行列が出来るものだったが、何となくロンドンのパブを想い出した。あのレストラン街が高級マンションに変貌したら、どういうことになるだろうか。

2023年11月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com