5908.2023年10月25日(水) 僧侶の変貌で退廃する仏教国ミヤンマー

 2021年2月1日ミヤンマーにおける軍事クーデター、8月アフガニスタン・タリバン政権復活、22年2月ロシア軍のウクライナ侵攻、そして今月に入ってイスラエル・パレスチナの攻防、など世界的地殻変動が相次いで起き、2年半前に勃発したミヤンマーの軍事クーデターはやや霞んできた。民主派政権が国軍により崩壊させられた衝撃的なミヤンマーのクーデターは、その後前記の事件が頻発したことによって、世界的に報道されることが少なくなり、やや影が薄くなった印象である。世界から監視が薄らいだその間に、ミヤンマーでは国軍が着実に地歩を固めたようだ。ミヤンマー国民の間では圧倒的な人気を誇る77歳のアウン・サン・スーチー国家顧問は、33年の禁固刑に処せられ、これでは終身刑に科せられたも同然である。国軍のトップ、ミン・アウン・フライン最高司令官が権力を握る軍事政権は、国軍による国家の統制、治安に重点を置いた政策で経済面が疎かなため、国内の避難民が100万人以上も生まれ、公共サービスは低下し、加えて国軍が国連との関係が悪く、国際機関による支援がほとんど期待されない状態で、国民は苦しんでいる。

 その中で昨日の朝日朝刊「見えない明日~ミヤンマー・クーデターが壊したもの①」を読んでショックを受けた。ミヤンマーは国民の約9割が仏教徒で、僧侶は国民から信頼され尊敬されている。市街を歩いているとあちこちで市民が托鉢する僧侶に食べ物を恵んでいる光景を目にして、爽やかな気分になる。ところが、同記事によるとクーデター後にその僧侶たちへの国民の尊敬の気持ちが大分変容したようだ。僅か2年半の間にこれまでの仏教や僧侶への帰依が、「疑念」に代わりつつあるというから驚きである。それは国民の味方と見られていた僧侶が、クーデター後国軍の厳しい弾圧に対して抵抗や反対を唱えることがなくなったことである。クーデター前には、スー・チー氏らの民主派にも国軍側にも立たず、政治的に中立だと繰り返し説いては、困ったことがあれば何でも相談に来なさいとまで言っていた僧侶の長老が、反クーデターデモに参加しないよう信徒らに通達を出したり、彼らが拘束された時には、沈黙していたという。

 更に驚いたのは、これら仏教徒の頂点にいる長老たちが、国軍首脳らに付いて外遊にも同行していたという過去にはなかったような事実が伝えられたことである。経済的に貧しいミヤンマーで、その国家経済とは疎遠である筈の僧侶が、国軍のアン・ミライ・フライン総司令官らとロシアへ旅行してVIP待遇を受けていた。名作「ビルマの竪琴」に描かれているように、ミヤンマーでは、僧侶とは地方都市へ素朴な巡行をするものだと承知している。僧侶らのあまりの変化に呆れ、失望した。現状では世界の目がミヤンマーには残念ながら注がれない。仮に以前の民主化政府時代に逆戻りしたところで、これでは僧侶たちに居場所がなくなるのではないかと思う。

 仏教国ミヤンマーから仏教を体現する僧侶が失せたら、ミヤンマーからミヤンマーの良さが消えてしまう。ミヤンマーには何度も訪れ、思いが強いだけにがっかりすると同時に寂しい気がしてならない。

2023年10月25日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com