5952.2023年8月30日(水) カンボジアで軍人の世襲首相就任

 38年間に亘って長期政権を担ってきたカンボジアのフン・セン首相が突然引退を宣言し、後任に45歳の長男、前陸軍司令官のフン・マネット氏が就任することが、去る22日カンボジア下院で承認された。フン・セン前首相は、首相を辞めたとは言え、背後で国の首脳らを操る気であり、実際与党人民党党首に収まり、来年には国家元首代行でもある上院議長に就く意向のようでもある。政界に未練たっぷりである。これでは引退ではなく、息子の施政ぶりを監視し、時には保護者として、また後見人として手助けしてやろうとの親バカぶりが垣間見える。とても民主主義国家とは言えない。

 1977年にポル・ポト派を離脱してベトナムへ逃げ、その後ポル・ポト派を壊滅させたフン・セン前首相はポル・ポト派の虐殺と圧政に苦しんだカンボジア国民にとって救国の父として、国民の圧倒的な支持を得て長年同国を支配してきた。四半世紀ほど前にカンボジアを訪れた当時、かつて内戦で荒れ果てた国土は落ち着き、国民は安定した社会体制の下に生活しているように見えた。そのフン・セン前首相に代わるフン・マネット新首相は、父フン・セン氏がベトナムに亡命した年に生まれ、その父親から首相の座を譲られたというより相続された典型的な世襲政治家である。いかに優秀だとしても、政治家として未経験の息子に身勝手に首相職を譲りたいがために、息子が初出馬の際いきなり断トツのトップ与党の比例名簿1位に据えて難なく当選させたが、これは非民主主義的、かつ私的に息子を国のリーダーに据えることであり、息子自身の能力が国民から支持されたというわけではない。実際7月に行われた下院選挙でフン・セン氏率いる人民党が、定数125議席の内120議席を獲得した圧勝によって政権基盤を固めたが、その背景には最大野党だったキャンドルライト党を書類の不備などを理由に排除したことが大きい。

 このように政治経験の浅い首相が、いくら強力な後ろ盾がいるからとて、これから多難なカンボジアの政界の舵取りをして行けるものだろうか。

 フン・マネット首相はアメリカのウエスト・ポイント陸軍士官学校を卒業し、ニューヨーク大学で経済学の修士号を、イギリスのブリストル大学で博士号を取得するなど欧米との縁が深い。これまで前首相は中国との関係を深めつつあったが、欧米志向の息子に代わって今後の外交はどうなるか注目されている。しかし、元々軍人であり、父同様に中国重視の姿勢を見せており、来月には中国を公式訪問する予定であり、保守的で覇権国家の道を歩むのではないかと懸念される一面もある。

 カンボジアは近年中国への接近から、今国際的には民主主義国家へ向けて進んでいないと厳しい声がある。日本政府としても民主主義を根付かせるべく90年代にカンボジアの和平に積極的に関わり、自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に初参加して文民警察官を殺害されるような犠牲も払いながら、93年に初の民主的な選挙を実現させた。だが、2010年代になって中国が最大の援助国になってから状況は変わった。カンボジアの将来は、中国との蜜月を築くことによってより以上に発展することが出来るのだろうか。はたまた中国との関係は崩さずとも欧米志向と見られるフン・マネット首相が、民主主義的政治を実施する気持ちがどの程度あるか、注目されるところである。

2023年8月30日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com