5851.2023年8月29日(火) 気骨あるジャーナリストの取材行を国が認めず。

 今年6月東京地裁で日本政府に対して訴訟を起こしたフリー・ジャーナリストがいる。一部にはかなりその名を知られている元信濃毎日新聞記者の安田純平氏である。2015年シリア内戦取材のためトルコ国境からシリアへ密入国した直後に武装勢力に捕らえられ、18年10月に3年4か月ぶりに解放され帰国した。その2か月後再び海外取材へ出かけるべく自らの旅券を申請したが、国によって拒否された。海外の厳しい現場取材をベースにしている安田氏にとっては、死を意味するような処遇である。安田氏は処分撤回などを求めて国を提訴したのである。

 憲法が保障する移動の自由である外国への旅行に必要な旅券の申請を、なぜ安田氏は拒否されたのか。安田氏は今回の旅券発給拒否は国際信義に反すると主張している。というのは、12年と15年にも安田氏はシリアへ密入国している。シリアのアサド政権は、外国人ジャーナリストの入国を認めないため、欧米メディアもやっていたように反政府側が支配する地域での取材は、非正規の国境越えしかなかった。政府はトルコから安田氏解放の条件として、安田氏を今後出国させないという理不尽な約束をさせられたという。

 また、安田氏が解放された背景には、日本政府がそれなりの身代金を支払ったとの噂も聞こえる。安田氏に批判的な匿名の人物らから、身代金は国民の税金から支払われているので安易に行動するなとの投書があったようだが、一番大切な論点が欠けている。それは、安田氏のようなフリー・ジャーナリストが身を賭けるようなことまでして危険な戦闘地域に潜入して取材するからこそ、生々しい現地の真に正確な情勢が伝えられるのである。加えて、国が個人の旅行のための旅券発給を拒否してブレーキをかけることは、「行動の自由」、「言論の自由」、「報道の自由」を制約することでもあり、明らかに個人の自由を束縛する憲法違反行為である。

 何といっても安田氏に国外旅行を中止させようとする政府の判断は、個人の行動を国が縛り付ける一種の抑圧行為であり、不条理で認めがたい。更に安田氏のような優れたジャーナリストが真実を伝える現場に足を運ぶことが出来ないことは、その種の情報に枯渇している国民にとっても不幸なことである。

 私は、安田氏を個人的には存じ上げないが、知識はもちろん、正義感、向上心、冒険心などを兼ね備えたジャーナリストとして卓越した人物であると信じて、早くからその行動力を買っていた。2018年10月にテロリスト集団から身柄を解放された日とその3日後に彼への見方と行動について、本ブログにも取り上げて疑問を呈している。私自身も戦地のような危険な土地で、身柄を拘束された経験があるが、それは正規軍隊と警察によるものであった。その点では安田氏は密入国した戦地でテロリストに捕らわれたので、深刻さの度合いは異なるとは思っているが、身の毛がよだつ体験となったことは共通していると思う。その意味でも安田氏の拘束された時の恐怖感と臨場感は、理解出来る。

 少々気がかりなのは、安田氏の旅券発給が認められなかったことについて、一部のメディアを除いては、その実情についてあまり報道されていないことである。自分たちの仲間である不運なフリー・ジャーナリストに対して、メディア全体でもう少し支援する動きがあっても良いのではないかと思っている。

2023年8月29日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com