5843.2023年8月21日(月) 真偽取り混ぜ興味深いゾルゲ事件の舞台裏

 セルビアで活動している友人山崎洋氏が、先日メールで新聞記事のコピーを送ってくれた。戦時中のゾルゲ・スパイ事件に関する北海道新聞の3日間(8/11~13)の連載ものである。彼についての記述と写真、それに近著「山崎洋仕事集」も紹介されている。最近はゾルゲ事件に関する報道が大分少なくなったが、それは事件を知る関係者やジャーナリストがほとんど他界してしまったせいでもある。この記事は北海道新聞の「私たちの平和論」というシリーズで、同新聞東京報道センターの女性記者・大沢祥子氏が曽祖父の残した資料や、関係者にインタビューして写真を添付して1日辺り8段の大枠のスペースを取っている。特にゾルゲや同志で山崎氏の実父であるブランコ・ド・ブケリッチが特高に逮捕された時の様子、独房生活等についてかなりスペースを割いている。どうしてこの女性記者が、このような特殊な環境にあったゾルゲ事件関係者について調査したのか、興味深く感じた。実は、大沢祥子氏は、戦時中警視庁特高警察部・鈴木富来警部の曾孫で、偶々曽祖父の遺稿集を見つけ、そこにゾルゲらを逮捕した当時の記録や、収監中の様子などが書かれていたことに興味を持ったようである。

 曽祖父富来はブケリッチに対して「自白を強要したり拷問を加えたような事実はない」と断言している。ところが、アメリカ陸軍省は戦後ゾルゲ事件に関してウィロビー報告を発表したが、その中にはブケリッチが終戦の年、1945年1月に網走刑務所で亡くなったことに触れ、「獄中で死亡したことは彼が拷問されたのではないかという疑問を起こさせる」と咎めている。これに対して、富来はウィロビーがなぜ誤った見解を報告書に載せたのか理解に苦しむと反論している。そして「拘置所内での彼らの処遇は他の日本人被疑者よりきわめて優遇されていた」とまで述べている。曽祖父の主張が正しいのかどうか曾孫は、国会図書館などで関係資料について徹底的に目を通した。「尾崎・ゾルゲ研究会」代表で一橋大学名誉教授の加藤哲郎氏は、拷問はなかっただろうと富来の言を信じている。大沢氏は山崎氏が父ブケリッチの手紙などを出版していることを知り、山崎氏と会って更に詳しい話を聞きたいと希望した。だが、山崎氏はもう60年もベオグラードに居住して、年に1度は帰国することがあるが、会うことは中々難しい。

 結局大沢氏は山崎氏へ書面インタビューという形で連絡を取ることになった。そのインタビューの回答書も山崎氏から送ってもらったが、その中で山崎氏は「『鈴木富来遺稿集』は創作である」と断言している。私も知っているが、ブケリッチ逮捕当日の朝の様子は、山崎氏が母親から聞いた事実と富来の内容が細かい点でかなり異なっていることである。

 山崎氏は現在セルビアで家族とともに過ごしてはいるが、大学を卒業と同時に父親が活動していたユーゴスラビアへ渡り、現地で現在のセルビアと日本の友好のために精力的に活動している。敬服するばかりである。大学の同期生ではあるが、これからも今まで通り活動され、我々にも力を与えて欲しいと願っている。

2023年8月21日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com