5768.2023年2月27日(月) カナリア諸島先住民のミイラに対する思い

 今日は随分暖かい。都内の気温は14℃であるが、ウォーキングに出かけたら汗をかくほどだった。明日以降もしばらく暖かい日が続きそうで、久しぶりに講演をする明後日は、19℃だというから4月の気候である。どんな衣服を着ていったら良いのか考えてしまう。

 ついては、「NATIONAL GEOGRAPHIC」2月号に「知られざる千のミイラの洞窟」という特集が組まれていて、昔の死者の遺体がこれほどまでにきれいに保存されているのかと写真とイラストを見て驚いている。スペイン領カナリア諸島のテネリフェ島の洞窟内に保存されていた先住民のミイラである。1772年の文献に「素晴らしい神殿が発見された。1,000体ものミイラで埋め尽くされている」と紹介されている。写真を見ても18世紀に発見された多くのミイラが、これほど完全な形で発見されるとは極めて珍しいと思う。ロシア・モスクワ市内の「赤の広場」にあるレーニン廟には、ロシア革命を主導したレーニン本人の防腐保存された遺体が大切に保存され、連日多くの参拝者が訪れている。20余年ばかり前に私自身レーニン廟を訪れ、レーニンの遺体と対面したことがあるが、まるでレーニンが眠っているように見てとれた。但し、この保存方法は、かなりの費用がかかるようで、今ロシア国内ではこのまま将来に亘って保存すべきか、或いは遠からず埋葬すべきか、議論が分かれていると聞いている。

 そのレーニンの遺体とは比べようがないが、数百年も昔の多くの遺体がテネリフェ島山中の洞窟内に手つかずで保存されていたとは信じがたいことである。中でもひとつの遺体は、肉が乾燥したまま骨に固まっていて骸骨という感じではない。その人のものかどうかまでは分かっていないが、頭蓋骨には髪の毛まで付いている。手足の指先には爪も残っている。時代的には12~13世紀のものと考えられている。古い時代のものであるが、遥か古代のエジプトのミイラとは保存の仕方が異なるようで、死後の世界へ送るに当たり、4段階を踏んで保存された。第1段階では、遺体を水と薬草で汚れを落とし、遺体を清めた。そして天日干しの効果を高めるため、全身に動物の脂を塗った。第2ステップでは、腐敗を防ぐために鉱物、薬草、樹皮を混ぜ合わせたものを身体の表面の隅々まで塗布した。第3ステップの脱水工程では、15日間を要して日中は十分日差しのあたる砂地の上に遺体を置いて寝かせ、夜間は焚火の煙で燻した。最後は乾燥の工程が終わると遺体をヤギの皮で包み、永遠の地である洞窟へ運んだそうである。ここまで故人への思慕と愛情を死後の世界にまで届けようというのは、世知辛い今の世では考えられないことである。昔この島では人が亡くなると親類縁者の人々は丁重に故人を来世に向けて送ったのだ。

 翻って昨今のウクライナ戦争の現場では、ロシア軍によって殺害された人々の遺体がそのまま戦場に放置されたり、無造作に掘られた穴の中へ埋められている。そこには故人への哀悼の気持ちなんかまるでない。昔のカナリア諸島では、亡くなられた先住民へ周囲の人々が恋しく慕う気持ちがよく現れたミイラだと思うと、何とも言えない気持ちに捉われる。

2023年2月27日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com