今年5月に先進7か国首脳会談(G7)が岸田首相の地元広島市で開かれるのを前に、G7で議長を務める首相は、取り敢えずドイツを除く5か国を足早に訪問し、5か国首脳と顔合わせを兼ねて会談した。会談の主たる目的は、対中国政策でG7が足並みを揃えるための根回しのようなものだ。1か国に1日しか滞在しないハードスケジュールである。昨日最後の訪問地としてワシントンD.C.を訪れた首相は、バイデン大統領と首脳会談を行った。話し合いは、予定通り中国を念頭に東シナ海や南シナ海での力による一方的な現状変更の試みに強く反対するとともに、台湾海峡の平和と安定の重要性を共有し、平和的解決を促していく方針で一致した。具体的に日本の反撃能力を含む防衛力強化で、日本国内では国会、国民への説明も十分しないで身勝手に決めた防衛予算の大幅な増額などは、アメリカにとっては望むところであり、台湾有事に際しては、アメリカ1国が台湾を防衛支援するだけではなく、はっきり明言しないまでも日本が支援してくれるものと受け取った印象である。実際バイデン大統領は、日本の防衛力強化を称賛している。日本はすでに専守防衛の看板を降ろし、事の成り行き次第では、台湾有事に自衛隊が関与する危険がある。
首脳会談後恒例の共同記者会見がなぜか行われなかった。その理由は、バイデン大統領が副大統領時代に機密文書を外部に持ち出していた問題で、司法当局が捜査を進めていることが、記者会見に応じていられない気持ちにさせたのではないだろうか。機密書類持ちだしについては、トランプ前大統領が昨年特別検察官の捜査を受けたし、当時バイデン氏はトランプ氏の不適切な機密書類の扱いを無責任だと糾弾していたが、今度はブーメランのようにバイデン氏に跳ね返ってきた形である。こんなことで共同記者会見が反故にされたのだ。日本はアメリカに「好い子・日本」とおだてられ、アメリカに利用されているだけではないのか。
いずれにせよバイデン大統領個人にまつわる不祥事のせいで、日米首脳共同記者会見が開かれなかったのは、極めて異例であるし、首脳会談を重要視していないことを露呈したことにもなる。
この度の岸田外遊は、G7に先立つ根回し外交であるが、短兵急にことを成し遂げ、その実行力において訪問したこと自体の評価は政府内では高まったかも知れない。だが、最近の岸田首相の言動を見るにつけ、ドロ沼に足を取られて沼でおぼれ死にそうである。とにかく軍事費を増額し、アメリカへ兵器を注文し、専守防衛どころか最前線へ進出するイメージが強い。日本が戦争に向かうその最前線の先頭に立って旗を振っているようだ。国民の意見も聞かずに、憲法をないがしろにして自衛隊が武器を担いでアメリカのご機嫌を取りつつ台湾近海にまで進出し、日本を戦争に巻き込みかねない危機に追い込むような行動がイメージとして浮かんでくる。最早国内には残念ながら我々がデモに参加した60年安保闘争時のような反軍事、反戦の空気が感じられない。その隙に岸田首相はむしろ先手を打って、軍事国家への道へ歩みだそうとしている。あ~ぁ!怖い!怖い!