5597.2022年12月17日(土) 専守防衛なのに敵基地攻撃能力保有とは?

 この1週間ばかり防衛費増額に関する話題が、メディアをてんてこ舞いさせてきた。岸田首相の意外に強気な決断と憲法に抵触しかねない実行宣言には、驚かされている。何といっても短期間に身内だけで防衛費増額を増税しても実行すると決める強引さと、物事を決める順序を間違えている支離滅裂さに、これが他人の意見を聞く性格と自らを評していた岸田文雄であろうかと不審に駆られている。

 今朝の朝日には、ほぼ3頁分を埋め尽くすように一連の経緯を批判的に取り上げている。大きな見出しを挙げてみよう。「戦後日本の安保 転換」「敵基地攻撃能力保有 防衛費1.5倍」「骨抜きの専守防衛」「撃たれる前に『反撃』」等々である。特に気がかりなのは、周辺国から先制攻撃を受けることのないよう事前の攻撃準備を整えておくことに関して、過度に拘っていることである。例えば、安保関連3文書の特筆すべきポイントは、①中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」、北朝鮮は「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「安全保障上の強い懸念」と位置づけ、②相手の領域内を直接攻撃する「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を保有し、③国産ミサイルの能力を向上させ、米国製巡航ミサイル「トマホーク」などを導入、等々である。攻撃される可能性のある国名を具体的に表明したことはいかがであろうか。これに対して、中国政府は直ちに警戒と反発を強めた。前から中国は、米国製の中長距離ミサイルが在日米軍や自衛隊に配備されれば、中国の安全保障に対する直接の脅威になると警戒していた。日本の実行宣言に対して、中国外務省副報道局長は「日本は事実を無視し、日中間の共通認識に背いて中国の顔に泥を塗り続けている」と非難した。最近の中国は台湾への干渉や台湾上陸を想定した軍事作戦を強行したり、東シナ海の日本の排他的経済水域内にミサイル弾を落下させたり、その過度の刺激的行動には日本政府も頭を痛めていたところである。しかし、だからと言ってそれを正面から反撃的な言動に出る前に、外交交渉という手を打てなかったものだろうか。国名まで露骨に挙げられたのでは、事前に侵略国と誤解されかねないと中国を強く刺激した形になった。どうして現時点で中国をこれほど強く刺激する手段を取ったのだろう。

 そして、相変わらず、国民を納得させていないのは、一挙に防衛費を大幅に増やすことを既成事実のように議論を行わず、しかも財源がない中で岸田首相が取ってつけたように将来世代に負担をかけたくないために現在の国民が背負うべきであるという考えを悪びれずに公言していることである。

 恐れているのは、今までなかったこのような論法とやり方が、政治家の胸三寸で当然のように行われては、民主主義の精神を揺るがしかねないということである。すべて自分たちのやりたい放題で議論を抜きにして、「結論先にありき」で事を進められたのでは、国民は堪ったものではない。これまで多少岸田首相の実行力に理解をしていたつもりであったが、首相の本質は民主主義というより独裁主義であることを、この度の防衛予算決定の杜撰なやり方によって思い知らされた気がしている。

2022年12月17日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com