5547.2022年10月28日(金) 上級者は最前線で戦え!「戦争絶滅受合法案」

 寒さが厳しくなってきたウクライナの戦線で、相も変わらず侵略者であるロシアのプーチン大統領が、最前線で戦っている兵士らの旗振り役となって愛国魂を鼓舞しているようだ。ついては、昨日の朝日夕刊「素粒子」になるほどと思わせる一文が載っていた。ジャーナリストの長谷川如是閑が、100年も前に紹介した「戦争絶滅受合法案」という奇妙な名の法律に関することである。その中身が揮っている。その法案はデンマークの陸軍大将の原文を如是閑が翻訳したものである。

 如是閑は明治、大正、昭和3代に亙り反権力論陣を張ったジャーナリストとして大正デモクラシーに活躍し、ファシズム批判でつとに注目された。この訳文を原文の法案に深く近づけてみると、概ね以下のように書かれてある。「開戦後または戦線布告の効力発生後10時間以内に次の者を最下位兵卒として最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従わせるべきであるとして、①元首で男性、②元首の16歳以上の男性親族、③首相・大臣・次官、④戦争に反対しなかった男性の国会議員及び高位聖職者」である。更に厳しく本人の年齢や健康状態などを考慮してはならずとしている。妻や娘、姉妹なども看護婦や使役婦として招集、最も砲火に接近した野戦病院に勤務させるべきだと、上級の立場にいる者は命じることよりも戦線の最先端で戦えと辛辣にアピールしている。

 「素粒子」で取り上げたのは、戦前の日本の軍隊でもそうだったが、軍隊で上位にある者ほど背後で命令だけを発して弾丸飛び交う戦争の最前線には出て来ないことを皮肉っている。それはビルマ・インパール作戦を強行した牟田口廉也・第15軍司令官の態度によく表れている。いま「素粒子」で「戦争絶滅受合法案」を取り上げたのは、プーチン大統領が自らはクレムリンの奥深く引っ込み、30万人を徴兵して口先では兵士たちに愛国心に訴え、彼らを厳しい前線に押し出し戦わせようとしている態度に皮肉を込めて非難したものだろう。「素粒子」の後半には「為政者が『愛国』を唱えるなら、動員令でも戒厳令でもなく、率先垂範この法の制定こそ」とある。「戦争好きなプーチン大統領よ! 兵士を前線に派遣するだけでなく、今直ぐにでも自身が戦火の中へ飛び込め!」と言ってやりたい。

 言葉と言えば、同じような比喩的な言葉が、昨日の日経新聞朝刊「春秋」欄にも紹介されていた。「ドロナワ」である。旧統一教会に対する宗教法人法の質問権行使の基準を話し合うために文化庁の専門家会議が設置された経緯こそが正にドロナワ式である。そこにはこう書かれている。「『泥縄』という言葉はいつ生まれたのだろう。泥棒を捕らえて縄をなう。ことが起こってから慌てて対策を練るお粗末さを言い表して、かくも的確な表現はない」。

 前者は戦争最前線の上級者の狡猾な行動を皮肉たっぷりに批判したものであり、後者は言葉の面白みを突いているものだが、言葉というものはいかようにも使い分けが出来るということを改めて教えてもらった気がする。

2022年10月28日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com