ウクライナへ侵攻したロシア軍の旗色が最近パッとしない。東部ドンパス地方で奪った地域をウクライナ軍に奪回され、死傷者も増えているようだ。そこで、プーチン大統領は2つの荒っぽい決断をした。
ひとつは、ロシア軍の予備役の動員である。21日プーチン大統領は国内向けのビデオ演説で部分的な動員令の発動を宣言し、軍務経験のある予備役約30万人を段階的に軍に招集するという。ロシアとウクライナの軍事力の比較では、ロシアが圧倒している。ロシア軍は290万人の兵士を抱えており、その内90万人が現役である。その現役兵がやや不足気味になり、予備役200万人のうち30万人を現役に組み入れるというから、いかに劣勢に陥っているか想像がつく。これには市民から悲嘆の声が上がっている。この宣言が発令されてから、ブルガリアやセルビアなどロシアへの制裁に同調しない国へ、ロシアから逃げ出すロシア国民が目立っている。このまま戦争が長引けば、早晩第2の予備役招集もあり得る。唐突に入隊と聞いて逃げ出す予備役が出るのも止むを得まい。一方のウクライナ軍は、兵士110万人で、現役兵は20万人弱である。その数少ないウクライナ軍に圧倒されているのは、ウクライナが不足している兵力を補う兵器類の支援を欧米から受けているからに他ならない。
もうひとつのプーチンの荒業は、ロシアが23日占領地で住民投票を開始したことである。ウクライナ東部、南部の親ロシア派勢力は「ロシアへの編入」を問う住民投票を始めた。23日からは投票者が兵士の監視付で投票所へ行くことであり、実際に住民が自分の意思で投票所へ足を向けられるのは27日だけである。これによってロシアは賛成多数の結果を得て、一方的にウクライナ領土の併合を宣言しようとしている。茶番である。ただ、どの地域でも戦闘が続いており、ロシア軍の占領下に不透明な形で進められる投票には非難が集中している。そもそもロシアが主導的に投票を行うというのではなく、形式的には親ロシア派住民が住民投票を実施する形を取っている。それをプーチン大統領は住民の決定を支持すると言い、形だけの選挙を繕っているだけである。まぁロシア併合にどれだけの賛同が得られるのか、興味はあるが・・・。
数はまだ少ないが、当然のようにロシア国内でもプーチン政権の乱暴な政策に対して抗議のデモが頻発している。これを治安当局は鎮圧している。この2つの事案の実施は、ウクライナにとっても厳しいことであるが、それ以上にロシアにとっては退勢を露骨に曝け出すことになるのではないだろうか。
このような緊迫した中で国連安保理事会は、22日閣僚級会議を開いたが、予想通りロシアとウクライナの非難合戦となった。ロシアのラブロフ外相は、ロシアへの編入住民投票については、ウクライナ政府による親ロシア市民への弾圧が原因だと主張した。これに対してウクライナのクレバ外相は、ロシアは犯罪を隠蔽しており、ロシアの犯罪は侵略がなければ起きておらず、ロシアは犯罪行為の代償を払うべきだと反論した。
現状は、両軍の戦闘が進むばかりで、一向に明るい兆しは見えてこない。ただ、冬が厳しい両国にとって、これから更に辛い現実を迎えることになる。実際ウクライナでは、このところ夜は10℃を下回り、家屋が破壊され、ガスもなくなったところでは、とても生活を営んでいくことは難しい。厳冬期を前に両国はいかなる手段を講じるのだろうか。