5355.2022年4月19日(火) 旧ソ連絶対体制の残り火が発火?

 昨晩NHKの新シリーズ「映像の世紀―バタフライエフェクト」の「ベルリンの壁崩壊と宰相メルケルの誕生」と題したドキュメントを、あの時代を想いながら納得して観ていた。昨年12月に退任したドイツのアンゲラ・メルケル前首相と、旧東ドイツの歌手ニナ・バーゲン、そしてデモで自由を訴えていたカトリン・ハッテンバウアーの3人の女性の壁崩壊前後の感情と動きを描いていた。特に壁が崩壊した1989年11月9日当日、3人が偶々東から西へ入国したとは意外な偶然だった。

 冷戦下で秘密警察シュタージの監視下におかれ東ドイツの市民生活は、同じドイツ人の西ドイツに比べて自由はなく、暗い生活を強いられていた。その分断された中心都市ベルリンを舞台に3人の女性のそれぞれの姿を描いていた。元々芯の強い女性だと考えていたメルケル氏は、シュレーダー元首相の後16年間の長期間激職を務めて来た。その活動は、G7首脳の中でも目立っていた。抱擁力があり、ヨーロッパ諸国がアフリカからの難民の受け入れを拒絶する中で、唯一ドイツは彼らを受け入れた。あのわからずやのアメリカのトランプ前大統領とは、G7で口をきかないこともあったくらい個性的で意思の堅い人だった。

 元来東ドイツの大学で物理学を学んでいた彼女が、政界へデビューしたのが、ベルリンの壁崩壊前後だった。1989年の壁崩壊に続く、翌年の東西ドイツの統一は衝撃的だった。ポップス・シンガー、ニナ・バーゲンが唄い、壁崩壊前に東独で流行った♪カラーフィルムを忘れたわ♪は、暗い時代を象徴した半ばやけくそ気分の歌詞である。これにメルケル氏は気持ちを動かされた。昨年メルケル氏の引退セレモニーが行われた際、通常式典ではそれに相応しい楽曲を演奏するが、この時はブラスバンドが演奏したのがこの曲だった。それほどメルケル氏にとっては印象に残る曲だったのだろう。

 それにしても東西ドイツの統一は、旧ソ連の崩壊へ連鎖して行ったが、統一ドイツの社会は旧西ドイツに倣った資本主義国家となった。その中で東ドイツ出身の女性が長年に亘って政界をリードして来られたのは、類稀なる才能もさることながら、目新しいものでも状況に応じて採り入れる積極性と包容力が国民から支持されたからであろう。

 若いころは、東独の監視社会の中で自由に動くことが出来なかったことが、♪カラーフィルムを忘れたわ♪に心を動かされたのだろう。歌詞には、カラーフィルムを忘れたので、暗い白黒フィルムで暗い写真しか撮れなかったとの当時の暗い東独の社会状況を映し出しているのだという。

 振り返って東西対立の時代に、ブルガリア、ルーマニア、チェコスロバキア、ハンガリー、東ドイツなど東欧諸国を訪れたことがあるが、全般的に暗く、どこへ出かけても雰囲気は憂鬱で窮屈な感じがしたものだった。中でも東ドイツでは、どこへ行くにしても鋭い目のシュタージが附いてきて、公的な話はすべてシュタージの了解を得ないと出来なかった。よくぞ国民は長い間我慢したものだ。

 改めて現今のロシア軍によるウクライナ侵攻を考えて見るに、ロシアのやり方は旧ソ連時代と変わっていないのではないかと思う。第2次大戦でナチ・ドイツに勝ったからロシアは得意気に、ウクライナをナチ扱いしているが、そう言っているロシアこそがナチ的行為をやっているではないか。

 ロシアの大きな身体に潜む「旧ソ連体質」が、スターリン首相に取って代わった第2のスターリン、プーチン大統領の見境のない傍若無人な攻撃の中に読み取れる。それが今も世界を脅し続けている。

2022年4月19日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com