5291.2021年11月6日(土) 内乱のエチオピアを想い、憂うる。

 全土に非常事態宣言が出されているエチオピアが、北部ティグライ州のティグライ人民解放戦線(TPLF)の政府への抵抗で大分荒れた事態に陥っている。これまでに2度ほどエチオピアを訪れているが、滞在したのは首都アジスアベバ周辺だけで、首都の様子だけでは地方の実態は想像も出来ない。ついに国連安保理事会が、恒久的な停戦に向けた協議を呼び掛ける声明を発表した。また扇情的なヘイトスピーチや暴力を煽る行為をやめるよう要請もした。しかし、国連が制裁を課そうにもロシアと中国が、これはエチオピアの内政問題だと国連の介入に否定的な態度を示していることが、事態の悪化する原因ともなっている。‘NATIONAL GEOGRAPHIC’誌今月号が「エチオピアの苦悩」と題した特集を組んで、暴行されたり、レイプされた気の毒な人々の写真とともに、子どもを殺害されて手の施しようがないと嘆く父親のインタビューを含めて16頁に亘って悲惨な関連記事が掲載されている。

 同誌には、もうひとつジャーナリストのポール・サロペックの3万8千㎞に及ぶ徒歩旅行の興味深い記録「長い旅が教えてくれたこと」が載っている。2013年1月にエチオピアのヘルト・ブーリを発ち、中東、アジアを歩き続けて21年2月国軍がクーデターを起こしたミヤンマーへ辿り着いていたというから、何とも国際的な事件に出会う運命の人物である。

 エチオピアは日本の3倍の面積に80以上の種族から成る日本とほぼ同じ1億1千万人の人びとが住んでいる。社会的なインフラ整備が遅れ、改善された水を利用出来る世帯は僅か31%で、改善されたトイレを使用している世帯は、たったの1%である。それだけに、以前から生活上の不満も強く、このような生活上の不満に絡んだ民族間の争いが絶えないようだ。今回の紛争のきっかけはちょうど1年前、TPLFが政府軍施設を襲撃したことに対して、前年にノーベル平和賞を授与されたアビー首相が非平和的な反撃を命じた時である。アビー首相がもう少し慎重に行動していれば、このような悲惨な事態にはならなかったと思う。何と価値のないノーベル平和賞だろうか。政治家の平和というのは、ひとりで達成されるものではないから、政治家個人に授与すること自体がおかしい。ともかくティグライ州だけでも全人口の91%に相当する520万人が、緊急食糧支援を必要とし、210万人が避難民となっている。隣のアムハラ州で80万人、アファール州でも14万人が避難民となって、飢餓状態の住民が40万人もいる。これをロシアや中国が言うように、エチオピアの単なる内戦問題として国際社会はこのまま目をつぶっていて良いものだろうか。

 近著「八十冒険爺の言いたい放題」で、偶々ひとりのエチオピアの青年を取り上げて書いた。ローマ・東京オリンピックのマラソンで連覇を遂げ、一斉を風靡した今は亡きアベベ・ビキラ選手の甥ケベデくんである。医学生だった彼とは悔いの残る別れ方をしてしまったが、高地アジスアベバ市街の坂道をともに語り合いながら歩いたことが忘れられない。現在彼はエチオピアでどうしているだろうか。

2021年11月6日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com