5169.2021年7月7日(水) ナイル川のダム建設による影響

 先日半世紀も昔に訪れたことがあるスーダンの首都ハルツームの、白ナイルと青ナイルが一体となるナイル川合流点についてエッセイを綴っていたところ、偶然にも一昨日朝日朝刊と夜のNHK・BS国際報道番組が、その青ナイルの巨大ダム建設で沿岸の3つの国の間でもめていると伝えていた。エジプトのナイル川では1970年に完成したアスワン・ハイ・ダムが、エジプト経済に大きく貢献している。

 しかし、新たな巨大なダム建設が、水量調整などで隣国に影響が出て来ると軋轢もあり、万事順調とは行かない。現在青ナイルの源流であるスーダンとの国境地点に、エチオピアが世界最大規模の大エチオピア・ルネッサンス・ダムを建設中で、昨夏に続き一昨日ダムに貯水を始めたことにエジプト、スーダン両国が神経を尖らせ反発を強めているのだ。エチオピアはダム建設を電力不足解消の切り札と位置付けているが、ナイル下流のエジプトやスーダンにしてみれば、水資源の9割以上をナイル川に頼っており、エチオピアの言い分をそのまま素直に納得することが出来ない。

 このダム建設についてエジプト、スーダンは国連をはじめ、アフリカ機構など国際機関に仲介を求めているが、エチオピアが受け入れようとせず話はまとまらない。降雨量の少ないエジプトでは全人口の4分の1が農業に従事しており、上流で水量が制限されると感慨用水が制限され死活問題になりかねない。大河のダム建設は上流国にこそその恩恵が大きい。

 今や人口が1億人を超え、経済的にも苦しいエチオピアにとっては、電力供給の救いの神であるダム建設の効果を減殺する2カ国からの要望をすんなり聞き入れるわけにはいかないようである。エチオピアでは、北部国境ティグレ州で少数民族の抵抗に手を焼いたアビー首相は、エルトリアとの国境紛争を解決したとして19年ノーベル平和賞受賞直後に、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の拠点を空爆し、多数の犠牲者を出し、2万5千人の避難民がスーダンへ逃れた。今また他国の苦悩には一切目を向けようともせず、自国の主張のみを繰り返す平和主義者の肩書とは異なるアビー首相の好戦的なやり方には、権威あるノーベル賞選考委員会も頭を抱えているのではないだろうか。

 それにしても自国内だけを流れる河川ならともかく、隣国へ流れていく大河の工事プロジェクトは、隣国へ影響が及び難しい問題を孕んでいる。どうして関係国間で事前に話し合い精査、検討することが出来なかったのだろうか。

 その点で、ヨーロッパで2番目に長くその中心部を流れるドナウ川は、10カ国を貫流しているが、この種の問題は起きていない。ドナウ川でナイル川のような巨大なダム工事が行われなかったのは、幸いにも川の傾斜が緩くダムには不向きであったことと、下流の沿岸国への上流国の配慮があったからではなかっただろうか。東南アジア最長のメコン川が、チベットを源流に中国・雲南省からミヤンマー・ラオス国境、タイ・ラオス国境、カンボジア、ベトナムから南シナ海へ注ぎ込まれているが、その途上の国々が大きな建設工事でも行えば、たちまち下流にある国は負の恩恵を受けることになる。

 懸念されるのは、人工島を造成し公海洋上へ一方的に進出し、国際司法裁判所の審判を無視している中国が、メコン川でも「一帯一路」のような利己的大工事を行うことである。ここは中国にナイル川のダム工事が下流の沿岸国では歓迎されていない現実を教訓として考えて欲しいと思う。

2021年7月7日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : mr-kondoh.com