先日亡くなった俳優の高倉健さんを追悼する企画として、各テレビ局では昔の高倉主演作品を放送している。高倉の俳優人生を振り返る試みも放映されて、いかに高倉健が映画界においてかけがえのない俳優だったかということがよく分かる。
その中で今朝NHKが高倉健スペシャルとして2年前の「プロフェッショナル・仕事の流儀」を取り上げて、「男高倉健」の撮影現場に密着しながらその行動を追って紹介していたが、寡黙の人の代名詞とされて私生活を表に出さない控えめな性格を掘り下げて映し出していた。
かつては任侠、ヤクザ路線映画の主役として活躍していたが、平素の彼はそれとは大きく異なり、目立つような我欲の強い人間ではなく、むしろ目立たないタイプの人間のようだ。それにしても映画ファンのみならず多くの人々から慕われ、常に傑作映画の主役を務めてきたのは男優としては極めて稀ではないかと思う。
今朝のNHKは1時間15分もの長い番組だったが、それでも私生活と個性的な性格はほとんど伝えられていなかった。それについては実は数日前民放で放映された。
ひとつは江利チエミさんとの結婚と離婚についてだった。二人は結婚して12年後に離婚した。理由は江利チエミの借金が巨額になったために、チエミが望んで離婚を申し出た。その後離婚を悔やんだチエミが再縁を望んだ時高倉はメディアで大々的に伝えられたので、今更復縁は直ぐにはできない。いずれ時期が来たら考えようということになっていたようだ。チエミもその日を待ち望んでいたが、チエミは突然不慮の災難で急逝した。高倉は以降独身を通し、チエミの墓を自宅の近くに建てて毎日成仏を祈っていたという。嫌で別れたとか、不倫とかということではなく、むしろ純愛物語だったことを初めて知り、高倉のチエミへの愛情と生き方を改めて見直した。
もうひとつ意外で素晴らしかったことは、高倉健はとにかく筆まめだったことで、見知らぬ人から受け取った手紙に几帳面に返事を出したり、チーズ店のオーナーに味が変わったと言って感想を書き送った挙句にチーズ店の味を一段上級の味に変えさせ、以降手紙の交換をしているという人間味溢れるペンパルぶりには、今時の筆不精の若者に高倉の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
ひとりの俳優としてしか知らなかった高倉健が、これほど印象に残るエピソードを残してくれ多くの人々に感動を与えてくれていたとは、これまでまったく知らなかった。とかくスキャンダラスな俳優が多い世界で、これほどまっすぐに、愚直に自分の思うように生きて実績を残した人物はそう多くはいないと思う。
私は高倉の映画は名作「幸福の黄色いハンカチ」しか観ていないが、改めて高倉健は俳優としても、人間的にも素晴らしい人物だったと思う。