近年日本への外国人観光客が順調に増加しつつある。実際この数年間に外国人訪問客の数はうなぎ登りに伸びている。日本政府観光局(JNTO)の推計では、昨年日本を訪れた外国人は約1340万人と見ている。その中でアジア方面から、特に近隣の台湾、韓国、中国、香港からの旅行者の中には買い物を目的とする人たちも多く、日本を訪れた外国人の消費の合計額が日本の名目国内総生産(GDP)の0.4%にも匹敵するというから驚きである。今では観光業がわが国のGDPに占める割合は、自動車産業を上回る水準にまで高まっているというのだから、我々が従事していた一昔前にはとても考えられなかった。隔世の感がある。
かつては、日本へやって来る外国人観光客の数は少なく、その一方で日本人海外旅行客は多く、観光業は海外への支出額が圧倒的に多く、国の貿易外収支上大きなマイナスと見られていた。そのために観光業者の地位も相対的に低く、我々旅行エージェントは肩身が狭く感じたものである。観光業者は国費無駄遣いの最たるものだと役所から揶揄され何事につけ冷淡な扱いを受け、エージェントとしてはつい下を向かざるを得なかった。近著「南太平洋の剛腕投手」を執筆する前には、「士農工商・・・エージェント」と名付けた本を途中まで書いて出版しようと思っていたくらいである。まだ、全体の1/3ぐらいしか筆は進んでいなかったが、そのくらい私のみならず、多くのエージェントの胸の内には鬱憤が溜まっていた。
そして、昨今の観光ブームである。観光業が外貨を稼ぎだすと観光庁は得意満面である。敢えて言っておきたいのは、ブームは国が経済対策で観光業に注力したから訪れたのでは決してない。以前もそうだったが、今でも国は観光にこれという有効な手を打っているわけではない。すべて今日の観光ブームに火を点け、推進してきたのは民間観光業者の地道な活動である。
政府は口先では観光振興策が成功したとか、観光行政の効率化などと体裁の好いことを口走るが、とんでもない。大空港を作ったことぐらいしか、国交省はやっていない。況してや地道なソフトウエアには、これまでほとんど見向きもしなかった。
例えば、民間が逆立ちしてもできないことがある。日本人の心、日本文化、習慣、伝統を正しく外国人に啓蒙することである。日本について間違った理解や誤解をされないよう、正しい日本の姿を伝えることこそ国がやるべきことである。開閉式の扉の右手前(左前ではない)でなければダメだということは、我々は小学生の時に掃除をしながら先生から教えてもらった。左手に箸を持って食事をしている日本人のCMなんて何とかならないだろうか。「右手とは箸を持つ方の手」とは子どもの頃に教えられた基本だ。このように地味で大切なことは国がしっかり教えなければいけない。
日本政府観光局は、日本の礼儀や文化が壊されるのを徒に放置するのではなく、正しく日本の姿を伝えることこそ観光客を増やす前に成すべきことではないだろうか。