作家・椎名誠さんの事務所から新しい会社になって、近々事務所も転居すると連絡をいただいた。これまでの事務所は中野区南台にあったが、2月4日付で渋谷区笹塚に転居する予定で、事務所名もこれまでの「㈱椎名誠事務所」から「㈱椎名誠旅する文学館」へ変更したとのことである。まるで図書館か、記念館のような名前で、考えようによっては椎名さんらしいとも思う。
椎名さんの兄研二くんとは千葉・幕張小学校のクラスメートで、私よりほんの一足先に編入してきた。お互いに根っからの野球好きだったので、一緒に後楽園へ巨人を応援に行って特に親しくなったが、卒業後は別々の私立中学校へ進学して彼が亡くなる数年前に漸くクラス会を通して親交が戻った。誠さんに依れば、研二くんは酒好きで酒浸りのまま死んだようなものなので、本人は悔いがないのではないかと案外冷淡なことを言っていた。椎名さんには、私の処女出版書「現代海外武者修行のすすめ」の表紙帯に小中陽太郎さんからいただいた推薦文の他に、個人的に「~いやはや面白い。ものすごい冒険家ですね。映画を見ているようですっかり没入しました。いまの日本の若者すべてに読ませたいと思いました」と椎名さんならではのありきたりではない温かい推薦の言葉もいただいた。
先日古書店を覗いていて偶々珍しい文庫本を2冊見つけた。1冊は有栖川有栖著「マレー鉄道の謎」である。マレー鉄道では始発駅バンコックから終着駅シンガポールまで5回も乗車しているし、何度もマレー鉄道のツアーを企画した。幸いマレー鉄道をある程度知っているので、この本がどういう視点から書かれ、どんな謎があるのか、楽しみに購入したものだ。
併せて買い求めたもう一冊の古本が椎名さんの「秘密のミャンマー」である。今読んでいるところだが、椎名さんがミャンマーを訪れたのは、私が度々訪れていた時代に比べると大分時間が経過している。国家体制も変わり、地名もほとんどが昔とは変わっている。しかし、椎名さんが描くミャンマーとミャンマー人は、私が訪れていた頃に比べて少しも変っていないことが分かる。細かい点についてもビルマ人の特徴を的確に捉えていて、懐かしいビルマの情景を思い出させてくれる。
これまで椎名さんの旅物語には特異の「シーナ風」の味があり、殊更面白く感じていた。しかし、椎名さんがビルマを旅したとは耳にしていなかったので、どうしてあの魅力的な国を訪れないのだろうと、「シーナ風」ビルマの旅物語の出現を楽しみにしていた。そんな折に偶然「シーナ本」を古書店で見つけ思わず買ってしまった。新会社の発展を祈り、新しい旅物語の上梓を期待している。
さて、「イスラム国」の人質となっている後藤健二さんの救出活動について、各テレビ局が報じているが、中々これという解決策が見つからないようだ。日本とヨルダンとの外交関係や、ヨルダンの親日性など、今になってヨルダンという国に関するありとあらゆる情報を伝えている。特筆されるのは、現在のアブドラ国王が過去に11回も訪日されていることである。私も48年前にヨルダン軍兵士に身柄拘束され、3年前には改めて拘束現場を検証に出かけたので、その後あまり変わっていないアンマン市街の画像が出るたびに頷きながら感慨深く観ている。
後藤さんの解放についても「イスラム国」の出方が容易に読めず、日本政府としても対応に苦慮している。更にヨルダン政府にはヨルダン人パイロットが「イスラム国」で捕虜となっている自国の厳しい事情もあり、ヨルダン人の国民感情を考えると、簡単に後藤さんを救出するための代償として拘留中の死刑囚を「イスラム国」へ引き渡すこともできない。現時点では袋小路に嵌ってしまったようだ。
これからも解決までは毎日のように事件の経過が伝えられる。一日も早く人質が解放され、事態が解決されることを心より祈っている。