天下の東大教授の中にも随分乱暴で、独善的な持論を振りかざす先生がいるものだと思う。年金・社会保障の専門家のようだが、ひたひたと進んできた少子高齢化社会の中でその高齢者に対して、一方的に高齢者は権利を主張し過ぎであるとか、待遇が恵まれ過ぎであるとか、言いたい放題の問答が月刊誌「選択」今月号冒頭頁に「『シルバー民主主義』が国を滅ぼす」と刺激的なテーマで開陳されている。
選挙における高齢者の投票の結果が高齢者優遇に有利に働いていると見当違いの論理にも蘊蓄を傾けている。指摘された投票結果それ自体より、それ以前に全体として、或いは若者の投票率が低いことが、今最も憂慮されていることではないのか。然るに高齢者の、特に地方における投票行動が政治家をして高齢者に気を遣わせるようになっていると、個人的な不満から斜視的な見方をしているのである。東大教授にしてはあまりにも幼稚な自己主張ではないか。あまつさえ、今すぐに年金給付額を3割カットすれば、年金財政を継続できるとか、或いは年金財政を立て直すよりもいっそのこと制度自体を一旦破綻させたほうが、一時的な混乱は大きくてもゼロからの制度設計はやりやすいなど、教育者としてあるまじき暴言も留まるところを知らない。更に日本人は敗戦や、震災から立ち直った経験上立て直すことにかけては定評があるなどと、これまで年金改革に貢献された人たちを愚弄するように好い加減な事を口走り、永年かけて作られた年金制度をぶち潰すことにいやに熱心なのである。
この先生が教育者として最も欠如している資質は、過去の年金制度から今日までの経緯を検証、精査し、少しずつ軌道修正しようとの地道な研究心が感じられないことと、現状制度が気に入らなければ年金受給者の生活を脅かすことを歯牙にもかけないその冷酷さである。
先生の持論には、残念ながら高齢者らへ一廉の思いやりすら見られないことは、敢えて言わせてもらえば教育者としては失格ではないだろうか。東大経済学部と言えば、碩学・大内兵衛先生、有澤広己先生らを輩出したマルクス経済学の牙城であった。そこには間違いなく労働者や社会の底辺の生活者への温かい目線があった。だが、この先生には、ジョンズ・ホプキンズ大学でアメリカ資本主義の格差社会を学んだせいか、資本主義の甘い汁をたっぷり吸った富裕層への理解しかないようだ。こういう教授に指導を受けた学生たちがいざ社会へ出た時、どういう道を進んでいくだろうか。そして、恵まれない労働者とともに共同作業をするようになった場合、このような上から目線の対応で労働者たちから理解や信頼を得られるだろうか。
この先生とは、現在東大大学院経済学研究科で教えている井堀利宏教授(62歳)、その人である。
少なくとも私は大学ゼミではマル経の良き師に巡り合い教えを請うことができて、幸せだったと思っているが、こういう高齢者層や社会的に恵まれない庶民をいじめようとしている教授を知ると残念でならない。今更ながら恩師にもいろいろなタイプの先生がいるものだなぁと思う。