「イスラム国」による日本人人質殺害事件で必要以上に日本人に対する警戒を強めている政府は、昨日シリアへの渡航を計画していた新潟市内のカメラマンに旅券の返納を迫り、受け取った。これは政府がカメラマンに渡航の自粛を説得したが、受け入れてもらえなかったため外務省が旅券法という法律に基づいて行った強制執行である。
外務省は殺害された後藤健二さんに対して、昨秋以来3度ほど注意を促したとされる。だが、後藤さんは忠告を受け入れず自らの意思でシリア入りして「イスラム国」に捕まり殺害された。後藤さんの個人的な行動により、ヨルダン政府との交渉や、現地対策本部の立上げなどが、メディアでも大々的に報道された。政府の方針が是か非かまで問われたり、相当エネルギーを注いだことなどの反省から、政府には今回新たな拉致事件などの発生を未然に防ごうとの考えがあったと見られている。
今朝の新聞でも、個人の意思により行動しようとしている日本人カメラマンの自由を外務省が強制的に剥奪することになるのではないかと懸念されている。
このカメラマンはもちろん遊び半分で出かけるのではなく、現地の悲惨な実情をカメラに納めて世界へ広く発信しようというのである。
つい先日高村正彦・自民党副総裁が、後藤さんが現地へ出かけたのは蛮勇であると批判的なコメントを述べていた。しかし、後藤さんのこれまでの実績を見れば、好い加減な気持ちで危険な地域へ出かけたわけではなく、あくまで誰も伝えない臨場感溢れる現地の子どもたちや難民の姿を日本人を始め、多くの人々に伝えようとボランティア・スピリットで試みたのである。従って、高村副総裁が言っているように、計画を取り止めるようにアドバイスしたのを振り切って行ったのだから蛮勇だというなら、それは現場の実態や背景、更に真の旅行目的がよく分かっていない人間の言うことである。高村氏自身が直接後藤さんに会って説得したわけでもなく、役所が一片のメールや文書を送った程度のアドバイスでは、硬い信念を持って自己責任で行動しようとしている人に対して、旅行中止をアドバイスすることにはならないと思う。
現場の空気がまったく理解できない人の説得では、後藤さんには通じまい。説得しきれなかったからと言って相手を蛮勇呼ばわりするのは、現場知らずが思うようにならなかった腹いせではないかと思いたくなる。これだから現場の臨場感が分からない人は困る。