年度末を迎えて、新年度にはステージを去るテレビ番組のキャスターやレギュラースタッフがお別れの挨拶をしていた。NHK朝のニュースでもお別れの挨拶をしていた。「ありがとうございました」と口裏を合わせるように感謝の言葉を述べていたが、この「ありがとうございました」という表現は間違いで、「ありがとうございます」が正しい日本語である。
今から14年前の2004年アテネ・オリンピックの折、メダリストに対してNHKアナが「おめでとうございました」「ありがとうございました」と度々言っていた。NHKは「ございます」と「ございました」を動詞の現在形と過去形だと思い違いしているようだが、これは「ありがとう」と「おめでとう」にそれぞれ「ございます」という丁寧語を付けただけだ。従って動詞ではないので、勝手に時制の変化をさせてはいけないとお節介だったが、NHKに対して「ございました」は間違いだと指摘、注意し拙稿掲載誌を送った。当時の放送文化研究所用語研究班S氏とアナウンス室担当部長T氏からは、以降アナウンサーには「~ございました」ではなく「~ございます」と話すよう指導すると回答をもらった。実際その後しばらくはNHKアナから「~ございました」は聞かれなくなってすっきりしたと思っていた。
ところが、いつの間にかそれが元の木阿弥となり、今では間違った言い方「ありがとうございました」「おめでとうございました」が通り相場になっている。普段そのように話しているせいであろうが、誰もそのことに気を遣わないとは少々情けない。それにしてもNHKでは指導者が注意しても時が経てば忘れ、それが正しいことであっても正そうとはしない空気があるのだろうか。これを民放が真似するわけだ。
因みに今朝話していたキャスターと出演者も、一人ひとり「ありがとうございました」と言っていた。気持ちが伝われば良いと考えているのかも知れないが、あまりにも軽いという印象は否めない。それに話すこと、伝えることが職務とも思えるNHK内部に言葉を大切に扱うという気持ちが見られないのが、何とも寂しい。
今ではNHKに在職しているのか分からないS氏とT氏が、これを観ていたら何と思うだろうか。結局のところ偉そうなことを口にしても、話し手のプロが基本である言葉の使い方を知らないということなのである。加えて外部からの正しいアドバイスも無視される。これでは良かれと思いアドバイスしても張り合いがないということにもなる。
こうして日本語はメディアから壊れていくのだろう。桜が散り始めた時節に合わせて寂しいことである。