今朝の朝日新聞「論壇時評」で担当記者が選ぶ「注目の論点」に取り上げられているのが、菱田雄介氏の「ロヒンギャ 忘れられた難民たち」である。早速掲載誌「中央公論」4月号を近くの書店で購入し目を通してみた。筆者の読売テレビ・ディレクター菱田氏はバングラディッシュ側から難民キャンプに入り、ロヒンギャ難民やミャンマー人に直接取材した。菱田氏は論稿の中で問題発生の原因は、19世紀前半第1次英緬戦争でビルマ(現ミャンマー)がイギリスに敗れ、すでにインドを支配していたイギリスがミャンマー・ラカイン州に住んでいた仏教徒を追い出し、ベンガル地方のイスラム教徒を強制居住させたことにあると指摘している。
ロヒンギャ事件が明るみに出た昨年8月以来、残念ながら真っ当にイギリスのこのような悪行を指摘したのは知る限り菱田氏が初めてである。知っていても書かないのか、或いは知ろうともしないのか、国際的にも日本のジャーナリストの間にもこの問題の真実を究明しようとの姿勢は見られない。ジャーナリズムの劣化と呼べば好いのだろうか。
筆禍事件を恐れる日本のジャーナリストは、これまでこの点にまったく触れて来なかった。また罪悪感があるのだろうか、イギリス政府もこの件についてはノーコメントを通して、国連が各国はミャンマーに対して経済制裁を課すよう促している有様である。国連もレベルダウンしたものである。アウンサンスーチー国家顧問も辛い立場にあるが、反英行動には出られない。自身亡夫と子どもが英国籍だからだ。菱田氏はミャンマー人から彼らがロヒンギャを許せない事情を聴き出す。
これらにつき、これまで日本のジャーナリストは関心を示さなかった。しかし、これだけ国際社会の注目を集め、ミャンマー、バングラディッシュ両政府間で事態解決のための協定は結ばれたが、それも実行されることなく今日に至っている。菱田氏のように現地へ入り真実を突き止め、それを基本に本当の解決策を見出さずにミャンマー政府だけを一方的に非難しても事態は解決しない。
このロヒンギャ難民問題については、私自身これまでイギリスが反省し倫理的にも道義的にも罪の重さを感じて積極的に解決のために乗り出すことを期待しているが、イスラエル建国問題で二枚舌外交の前科があるイギリスは知らぬ存ぜぬである。今月1日のブログでも取り上げたが、今取り掛かっているメディア批判の拙著の中で、この問題に対する日本のジャーナリストの無責任ぶりについても更に追及して行きたいと考えている。
いずれにせよ悪の根源はイギリスにある。イギリスの悪行を放置してはならない。
折も折健康不良で辞任したティンチョー大統領の後任に、昨日スーチー国家顧問の側近、ウィンミン前下院議長が就任した。新大統領には、何とか事態を打開してほしいものである。