中国の習近平・国家主席が国賓として今イギリスを訪れ、エリザベス女王やキャメロン首相ら政界要人らから異例の歓待を受け、世界中のマス・メディアから脚光を浴びている。今回習主席のイギリス一国だけの訪問には英中両国双方にそれぞれの思惑がある。
その訪問目的はイギリスで近年沈滞する産業界のテコ入れとして、中国の投資を求めることであり、そのプロジェクトの最大のものは、原発計画への中国の巨額の投資である。もうひとつは、中国にとって初めての人民元建て国債の発行である。いずれは、高速鉄道のインフラ事業への参入も検討事項に上がって来ると思う。これまであまり積極的でなかったイギリスの中国への接近であるが、今年3月中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)にイギリスがヨーロッパ諸国の中で最初に参加を表明したことからアクティブになった。その後雪崩を打つように他のヨーロッパ諸国も同投資銀行への参加を表明した。
中国にとっては、現在アメリカとの外交関係が必ずしも順調ではない。9月に習主席がアメリカを訪問してオバマ大統領と会談した際も両者の微妙な溝は埋まらなかった。
今回習主席が手土産として提案したのは、イギリスへ7兆円とも言われている投資額である。中国はイギリスとのこの蜜月を機会に、他のヨーロッパ諸国に対しても積極的な経済外交を行い、アメリカを牽制する腹のようである。すでに近々ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領の訪中が取り沙汰されている。
こんな中国の対イギリス蜜月外交とは別途に、中国は現在アメリカとの緊迫した領海問題に直面している。オバマ大統領は、中国が南シナ海で埋め立てた人工島から国際法で領海とされる12海里以内に米軍艦船、または航空機を派遣する決断をした。アメリカは昔から人工島を自国の領土だったとする中国の強引な主張を認めず、航行の自由を行動で示すことを決断したようだ。これに対して今後中国政府が反発することは必至である。だが、この中国特異の主張ばかりは国際法上からもどこの国も認めていない。心配なのは、米中対立が南シナ海を舞台に演じられることである。もし、米中交戦という不測な事態にでもなれば、1ヶ月前に成立した安全保障関連法案に鑑みて、米軍の要請があれば自衛隊による戦後初めての実戦突入という最も避けなければならない事態に追い込まれる危険性がある。
中英蜜月とは裏腹に、米中関係では難しい局面を迎えそうな雲行きである。
他に最近の国際的に大きな動きとして、シリアのアサド大統領の突然のロシア訪問が目を惹く。そもそも自身の存在と統治自体が内戦勃発の最大要因であるアサド大統領が、秘かにロシアを電撃訪問しプーチン大統領と会談し、ロシア機によるシリア内のIS攻撃を感謝したという。アサド大統領はその日のうちに帰国したが、この極秘訪問が公式に発表されたのは大統領が帰国後という異常な顛末である。
ロシアがアサド大統領を支持し、シリア国内におけるアサド氏の基盤強化に資する目的と、ロシアが将来的にシリアにおける影響力を残したいとの思惑によるものと見られる。この訪ロは2011年シリア国内において内戦勃発後アサド大統領初の外遊となった。それにしてもこの時期のシリアとロシアの急接近はどうもキナ臭い。