今年はわが国にとって太平洋戦争終戦70周年であると同時に、世界史的にも第2次世界大戦終戦70周年に当る。更にあの激しかったベトナム戦争終結40周年の記念すべき節目の年にも当っており、いろいろな視点から戦争を回顧し、戦争の悲惨さをアピールする優れたドキュメンタリー番組がテレビで放映されている。しかしながら、この点ではNHKの独壇場と言っても良いと思う。特に第1次大戦の記録映像は欧米のメディアや公的機関から貴重な資料を借りるので、長く欧米の放送局と交流のあるNHKに取材力、資料収集の点では民間テレビ局はとても太刀打ち出来ない。
10月にガダルカナル島の戦没者遺骨収集を扱ったテレビ東京の報道番組なんか、その歴史的内容や解説は間違いだらけであまりの嘘三昧に、同社に対して質問をぶつけ、報道の内容について訂正するよう要求しているところである。こんな低レベルのドキュメント番組を制作されたのでは、戦没者や遺族は浮かばれまい。事前調査も不充分だが、これではどう考えても民間テレビ局はNHKには勝てない。
ベトナム反戦については私自身それとなく関わって来たので、ベトナム戦争終結40周年記念日、4月30日にベトナム全土で放映されたベトナム国営テレビの取材にも協力した。また、29日付‘The Japan Times’には戦争終結を記念して小中陽太郎さんらとともに気勢を挙げているポーズの写真が掲載された。
そのベトナム戦争関連の番組では、NHKのドキュメンタリー「サイゴンの陥落、緊迫の脱出」が印象的だった。1975年4月30日に北朝鮮軍が首都サイゴンに乗りこんで来る前の米軍、及び南ベトナム軍関係者のサイゴン脱出の各種の様子をこと細かく伝えていたが、これまでアメリカ大使館屋上からヘリで飛び立つシーンしか脳裏に残っていなかった。ところがこの番組では、海上に停泊する米駆逐艦へヘリで脱出する人々を乗船させ救助するシーンが強く心に訴えた。南ベトナム空軍ヘリが駆逐艦甲板上に着陸出来ず、避難民をロープで吊り下ろし、その後ヘリは海上に不時着水してパイロットが泳いで駆逐艦に辿りついた画像を観たのは初めてである。
先週金、土、日曜日に加古隆作曲の重苦しいが、何となく心に残るテーマ・ミュージックをBGMにして放映された「新・映像の時代」1~3回は、今週3回分を合わせ計6回で纏められている。第1回「百年の悲劇はここから始まった」、第2回「グレートファミリー―新たな支配者」、第3回「時代は独裁者を求めた」の3回を観た限りでは、時代背景、歴史の流れ、世界をリードした政治家や経済人、発明家のプライバシーまで紹介しながら登場させて、分かり易く解説し中々よく出来た作品だと思う。貴重なフィルムが目白押しで、第1次大戦前夜の暗い社会情勢や雰囲気から、ベトナム戦争まで戦争一直線になって行く世相をドイツの2度の敗戦、ロシア革命を基軸にうまく編集されている。
動画に登場した人物も、チャーチル、ロイド・ジョージ、レーニン、スターリン、ウィルソン米大統領、ヒットラーら錚々たる政治家を始めとして、昭和天皇、ニコライ二世、ジョージ五世らの王皇族、ロックフェラー、モルガン・ジュニア、エジソン、フォード、ヘレンケラー、マックスファクターらの他に、ピカソ、ココ・シャネル、ライト兄弟、リンドバーグ、アラビアのローレンスら多方面の異才が姿を見せ、この画像は資料としても貴重なものだと思っている。まだ、3回分が放送されるようなので、今から楽しみにしている。